短寿命核を用いた実験施設 -TRIAC(トリアック)加速器- 運転終了
#ハイライト2011年3月、KEK東海キャンパス(茨城県東海村)の実験施設「TRIAC(トリアック)」が運転を終了しました。TRIACの正式名称はTokai Radioactive Ion Accelerator Complex。KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)との共同研究で建設され、2005年の運転開始以来共同利用施設として、国内外の研究者により短寿命核の実験に使われました。
図1 寿命のある原子核の例地球上に存在する炭素の多くは、陽子6個と中性子6個の原子核からなる「炭素12」で、これらは安定な原子です。しかし、例えば、陽子を6個、中性子を8個持つ「炭素14」は不安定で、原子核の中から電子が飛び出してくるβ崩壊と呼ばれる現象によって、陽子を7個、中性子を7個持つ安定な「窒素14」に変わります。これらの不安定な原子核には、比較的安定なものと非常に不安定なものが存在します。炭素14は崩壊するまでに平均で6000年ほどの時間が掛かりますが、炭素16(陽子6個、中性子8個)は1秒程度、炭素18(陽子6個、中性子12個)は0.1秒程度で崩壊します(図1)。このように数秒~数ミリ秒で崩壊する不安定な原子核は「短寿命核」と呼ばれます。TRIACではこうした短寿命核を人工的に作り出し、さらに加速して短寿命核の性質を調べるために使われました。
原子核の種類は6000~8000種類にも及ぶと言われています。その中でこれまでに発見された原子核の種類はおよそ3000。つまり、半分以上の原子核が未発見のままです。発見された原子核の中でも、地球上に安定して存在するものはわずか300種類程度に過ぎず、存在し得る原子核の大部分が短時間で崩壊してしまう寿命を持った原子核なのです。
TRIACはタンデム加速器、同位体分離装置、電荷増幅器である荷数倍増用電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源、短寿命核加速用線形加速器から構成されています(図2、図3)。まず、タンデム加速器で加速された安定な原子核を標的となる原子核に衝突させて短寿命核を作り出します。その後、実験に必要な短寿命核を同位体分離装置で取り出し、荷数倍増用ECRイオン源で短寿命核のまわりについた余分な電子をはぎ取ります。これにより、線形加速器で短寿命核を加速することができ、高品質な短寿命核ビームとして実験に用いることが出来ます。このような技術は世界的に最高レベルに位置するものでした。
図4 超新星爆発後、陽子や中性子から元素合成が始まってから約1秒間で生成される原子核の量を計算した。赤になるほど多く、青は少ない核種を示す。灰色の印は自然に存在する安定核。1秒間という短い間に、陽子、中性子からウランのような重い原子核が一気に生成され、しかもその生成には短寿命核が深く関与していることが分かる。画像提供:日本原子力研究開発機構 千葉氏短寿命核を用いて主に天体核物理学の研究、原子核物理学の研究、核化学の研究、物質・材料科学の研究などを行ってきました。なかでも、天体核物理学の研究は私達の身の回りにある物質を形作る「元素」がどのように出来たのか?という謎の解明に繋がります。水素やヘリウム、リチウムなどの軽い元素は宇宙が誕生してすぐに作られました。しかし、それより重い元素は太陽などと同じ恒星の内部や質量の重い恒星が死ぬ際に起きる超新星爆発によって出来たと考えられています。このような元素の出来る過程では必ず、寿命の短い原子核である短寿命核を経由して元素合成が進んだと考えられています。そのため、短寿命核を人工的に作りだし、その性質を探ることで元素がどのように出来たのか、ひいては恒星の形成や成長についての謎を明らかにすることになります(図4)。
物質・材料科学の研究例としては、リチウム電池の電極中でのリチウム・イオンの拡散の速さの測定があります。電池の充電や放電は 電極中でのリチウム・イオンの移動によって行われるので、物質中でのイオンの移動する速さは 電池の性能を決める重要な要素です。物質にリチウム元素の短寿命核を打ち込み、 時間が経った後に物質から出て来る放射線を測定することで、打ち込まれた時の短寿命核の物質内位置分布が時間と共に広がっていく物質中での拡散の様子が高感度で調べられるのです。
TRIAC(荷数倍増用ECRイオン源、ビームライン、線形加速器とその附属部品一式)は、韓国原子力研究院(KAERI)に移管するために2011年9月から12月末にかけて、JAEAからの搬出作業が行われました。2012年2月頃にはKAERIに到着する予定です(図5)。韓国では、より高度化した実験施設として再建設されます。今後、短寿命核を使った研究が一層の発展を遂げることが期待されます。
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