家庭用燃料電池の効率向上に寄与する原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発に初めて成功

 

平成24年9月13日

国立大学法人北海道大学
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独立行政法人物質・材料研究機構
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研究成果のポイント

・家庭用燃料電池の効率向上に寄与する、原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発に成功。
・新規合金触媒上で一酸化炭素が効率よく除去され、高効率で発電可能な触媒機構を解明。
・家庭用燃料電池の効率向上だけでなく、応用範囲の広い触媒合成方法開発の進展に期待。


【研究成果の概要】

北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授の研究グループは、家庭用燃料電池の効率向上に寄与する白金原子とルテニウム原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発に成功しました。燃料である水素に微量の一酸化炭素が共存しても、新規合金触媒上で一酸化炭素が効率よく除去され、貴金属の使用量を少なくしても、高い効率で燃料電池発電が可能となり、貴金属資源の有効利用を実現しました。また、白金原子とルテニウム原子だけでなく、他の原子についても同様に完全に混ざり合った新たな合金触媒の開発が可能となることから、家庭用燃料電池の分野に限らず、エネルギー環境問題解決へも寄与することが期待されます。

【論文発表の概要】

研究論文名:Evidence of Nonelectrochemical Shift Reaction on a CO-Tolerant High-Entropy State Pt–Ru Anode Catalyst for Reliable and Efficient Residential Fuel Cell Systems
(高信頼/高効率家庭用燃料電池システムにむけたCO耐性高エントロピー白金-ルテニウム電極触媒上での非電気化学的水性ガスシフト反応の実証)
著者:Tatsuya Takeguchi*、 Toshiro Yamanaka*、 Kiyotaka Asakura*、 Ernee Noryana Muhamad*、 Kohei Uosaki*、**、 and Wataru Ueda* (*Hokkaido University、 **NIMS)
公表雑誌:Journal of the American Chemical Society、 134巻、 35号、 頁14508–14512.
公表日:米国東部時間 2012年9月5日(Web:2012年8月9日)

【背景】

固体高分子形燃料電池は、水の電気分解反応の逆反応を利用して、高い効率で電力を取り出すことが可能な発電装置です。特に、水素を燃料とし、高分子電解質膜を電解質として用いる固体高分子形水素-酸素燃料電池は、比較的低温(100℃以下)で動作し、小型化が容易であり、排出物が水のみのクリーンな装置であるため、自動車やモバイル電子機器の電源、家庭用コージェネレーションシステム1)としての普及が期待されています。現在、普及が図られている家庭用固体高分子形燃料電池システム2)では、燃料極触媒に白金-ルテニウム合金触媒が使用されていますが、都市ガスから製造した水素の中に微量に含まれている一酸化炭素により被毒され、触媒活性が低下することが大きな問題となっています。

家庭用固体高分子形燃料電池システム及び開発触媒の拡大図

【研究手法】

北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授は、家庭用固体高分子形燃料電池システムに用いられている白金-ルテニウム合金触媒の合金化度(白金とルテニウムの混ざり具合)を最大値まで高めることによって、高い触媒活性と安定性を示す電極触媒を開発し、同センターの朝倉清高教授及び物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス拠点の魚崎浩平コーディネーターと共同で、高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設のXAFS3)装置などを用いて、触媒機能の発現機構と高効率化の理由を明らかにしました。本触媒を用いることにより、燃料である水素に微量の一酸化炭素が共存しても、それを酸化除去することで、貴金属の使用量を少なく高い効率で燃料電池発電が可能となり、貴金属資源の有効利用を実現しました。

【研究成果】

水と油は激しく混合しても、やがて分離してしまいます。その性質と同じように、白金とルテニウムは、白金-白金及びルテニウム-ルテニウムという同種金属間の結合を作りやすく、白金相とルテニウム相に相分離が起こり、活性点である白金-ルテニウム結合が減少し触媒活性が低くなるという問題がありました。本研究では、白金とルテニウムの前駆体混合物を、短時間で昇温し、急激に冷却すること(ラピッド・クウェンチング法)により、新たなナノ白金-ルテニウム合金触媒を合成しました。本研究で開発した、原子が完全に混ざり合った(最大エントロピー4)を実現した)合金触媒は、家庭用固体高分子形燃料電池システムに用いることができる触媒としては、一酸化炭素による被毒に対して、現在手に入れられる高活性な触媒の中で最も高い耐性を示し、高効率で発電を行うことができました。(参考図参照)
新たなナノ白金-ルテニウム合金触媒上での一酸化炭素が除去されるルートについて、下記の電気化学酸化と水性ガスシフト反応の2つのルートに分けて速度を解析しました。
    電気化学酸化ルート         CO + OH → CO2 + H+ + e-
    水性ガスシフト反応5)ルート     CO + H2O → CO2 + H2
その結果、燃料電池を効率よく運転している条件では、主に水性ガスシフト反応ルートで、一酸化炭素が酸化除去されることを発見しました。

【今後への期待】 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光科学研究施設で、白金-ルテニウム合金触媒の構造分析を行ったところ、白金、ルテニウムへの結合の割合は、白金から見てもルテニウムから見ても3:2で、各原子の存在比に完全に一致することから、原子が完全に混ざり合った状態であることがわかりました。これまでは白金-ルテニウム触媒で原子が完全に混ざり合った合金触媒の報告例はありませんでした。今後、本技術を利用することで、原子レベルで元素の分布を制御した(原子が完全に混ざり合った)新しい合金触媒の開発や、新たな触媒の設計が可能となり、燃料電池の分野に限らず、エネルギー環境問題解決へも寄与することが期待されます。
なお、本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の助成事業「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/定置用燃料電池システムの低コスト化のためのMEA6)高性能化」の一環として行われました。

【お問い合わせ先】

北海道大学触媒化学研究センター 准教授 竹口 竜弥(たけぐち たつや)
TEL: 011-706-9165  FAX: 011-706-9163  E-mail:takeguch@cat.hokudai.ac.jp
物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 コーディネーター 魚崎 浩平(うおさき こうへい)
TEL: 029-860-4301  FAX: 029-860-4706  E-mail:UOSAKI.Kohei@nims.go.jp

【参考図】

一酸化炭素を含む水素ガスを用いた発電性能の比較

【用語解説】

1) コージェネレーションシステム
大型の火力発電所での発電では、発電時の排熱を有効に利用することは困難であるが、発電源を分散させることにより熱の有効利用が可能となる。コージェネレーションシステムは、燃料電池やガスタービンエンジンなどで電力を取り出すときに、発電時に生成する排熱を利用して温熱・冷熱を取り出し、総合エネルギー効率を高めることができる分散型のエネルギー供給システムである。

2) 家庭用固体高分子形燃料電池システム
主に都市ガスなどを原料として、改質器を用いて燃料となる水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電するシステム。発電時の排熱を給湯に利用するコージェネレーションによりエネルギー利用効率が高くなる。本格的な普及のためには、システムのコスト低減と性能及び耐久性の向上が求められている。

3) XAFS
X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure) 分光法。試料にX線を照射すると、試料に含まれる元素に固有なエネルギーのX線が吸収される。照射するX線のエネルギーを変えながら物質による吸光度を測定する実験方法で、注目した原子周辺の局所的な構造や化学状態を知ることができる。分析する試料は結晶になっていなくても良く、軽元素以外は大気中でも測定可能なため、測定できる試料の自由度が高く、電池材料や触媒はもちろん、最近では土壌や植物など、環境物質の分析にも広く使われている手法である。

4) エントロピー
熱力学において、系の「乱雑さ」を表す物理量で、乱雑なほど大きな値をとる。系のエントロピーと外界のエンエロピーの和は増加する。高温では系の反応はエントロピーに支配される傾向がある。

5) 水性ガスシフト反応
下記の化学式で表される反応で、一酸化炭素を水と反応させて、一酸化炭素を二酸化炭素として除去する反応。
CO + H2O(水)→ CO2(二酸化炭素) + H2(水素)

6) MEA
燃料電池の基本部品で、負極-高分子膜-正極を貼り合わせたもの。膜/電極接合体。

関連サイト

北海道大学触媒化学研究センター
独立行政法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)
物質構造科学研究所(IMSS)
放射光科学研究施設 フォトンファクトリー
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 
助成事業「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発」

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