2013年 年頭のご挨拶
#機構長コラム
新年明けましておめでとうございます。年頭にあたり一言ご挨拶申し上げます。
今年は次の飛躍のための基盤強化が最大の目標です。2008年に策定した研究戦略ロードマップの5か年計画は、皆さんの奮闘により大方(~80%)達成できたものと評価しています。今年は次の研究戦略ロードマップを定めて、目標達成に向けて足腰を鍛える年となるでしょう。次期5か年研究戦略は、一昨年来の研究者コミュニティでの議論を経て、現在、KEK内で最終案の作成中で、今年3月に完成を目指しています。その後、国際評価委員会における議論を参考にして、公にする予定です。
ここで、現時点のロードマップに対する私の意見を紹介し、皆さんと今後5年間のKEKの進むべき道を共有する場にしたいと思います。以下に主なロードマップ提言と私見を示します。
■ JPARC
提言:
ニュートリノ実験施設では、T2K実験の測定精度向上と、次世代長基線ニュートリノ振動実験に向けて具体的な研究計画を立案し、そのための準備研究を推進する。ハドロン実験施設では、現行及び新一次陽子ビームラインによる実験を着実に進めるとともに、ハドロン実験施設の拡張を目指す。
私見:
ニュートリノの将来計画は、日本のみならず欧州、米国でも同様の計画が立案されていて、技術・人的・経費資源の重複を避けるために、国際チームによる将来計画検討の場が、ICFA(International Committee for Future Accelerator)によって提供されます。このような場において、日本が主導的役割を果たすことが要求され、大いなる奮闘を期待しています。また、国内計画についても、加速器、測定器、期待される物理のどのような反論にも耐えうる堅個なデザイン報告書の作成を要求します。
ハドロン実験施設では、Slow Extraction Beam強度の増強を図り、研究成果を挙げることが第一です。その上で、日本の素粒子・原子核研究施設の統廃合や連携を視野に入れながら、将来計画を推進することが必要でしょう。
提言:
中性子実験施設では、パルス中性子実験装置の所期の性能を達成し、更なる開発、建設、高度化により物質生命科学の飛躍的発展を目指す。
ミュオン実験施設では、ビームラインの整備を行うことにより、高度なSR実験による物質生命科学、幅広い応用研究、基礎物理研究を進展させる。
私見:
中性子やミューオンビームは既に、世界最高強度を達成し、今後の研究成果を大いに期待します。また、提言の展望の中で記述されている「物質構造科学研究所(物構研)は、・・・複数の異なる量子ビーム(放射光・中性子・ミュオン・低速陽電子)を所内で有効活用できる、世界的にも稀有な大学共同利用機関である。物構研の構造物性研究センター及び構造生物学研究センターを中心として、量子ビームの複合的、協奏的利用の戦略を立てる」ことが、最重要課題であり、研究成果を基盤とした研究拠点形成の実現を、次期ロードマップ期間中期待します。
■ SuperKEKB/BelleII
提言:
加速器、測定器を完成させ、早期にルミノシティ設計値を達成し、新物理の探索を進める。
私見:
今年から加速器の改造に入るLHCの実験再開と、SuperKEKB/BelleIIの実験開始が重なるため、世界を2分しての素粒子の新成果の競演を期待します。
■ LHC/ATLAS
提言:
ATLAS実験を引き続き遂行するともに、加速器・測定器のアップグレード部の建設を国際協力で積極的に推進する。
私見:
LHCは加速器/測定器のさらなる改良を加えて、2030年頃までの実験計画が策定されています。このような長期に渡ってLHC研究を積極的・効果的に推進するには、これまでのCERN-KEK間の研究協力関係とは異なる、新たな協定の制定が必要と考えます。このための検討をすでに開始しました。
■ フォトンサイエンス(放射光科学)
提言:
PF及びPF-ARをアップグレードすることで放射光科学の推進を継続するとともに、c-ERLによる実証を経て3GeV ERL建設開始を目指す。さらに、日本全体の放射光科学の発展に対しても積極的に協力する。
私見:
次世代放射光源の有力候補であるERL(エネルギー回収型線形加速器)はKEKだからこそ実現できるものであると信じています。このためにもc-ERLでの加速器要素技術の実証と、新たな研究分野の開拓の可能性を実証することが必要不可欠です。これらの実証はコミュニティからERL建設の支持を得る最低条件です。
一方で、ERL実現までの期間、放射光科学をさらに推進するには、現放射光施設を小手先ではなく、抜本的に改造することが要求されるでしょう。この戦略を立てることができるか否かが、ERLを含めたKEKの放射光科学研究の将来を決めることになります。
■ 加速器・測定器技術の新展開
提言:
KEKの持つ加速器・測定器の技術・専門的知見を活かし、関連する研究分野との連携、産業利用・医療等を通じての社会還元、加速器・測定器技術の飛躍的な発展のための萌芽的研究を進める。
私見:
昨年の年頭の挨拶で述べましたが、昨今の大規模な高エネルギー加速器プロジェクトにおける潜在的な課題として、"プロジェクト規模の巨大化"、"プロジェクト経費の増大"、"プロジェクト期間の長期化"の3つがあります。この課題を克服するには、卓越した研究成果を出すことは勿論のこと、社会からの支援が必須です。社会からの支援を得るには、先端的加速器・測定器技術の応用を積極的に進めて、社会還元や技術イノベーションに大きな貢献を果たすことが重要でしょう。KEKには国内外から既に技術応用の要請が来ています。人的資源配置の工夫と産業界との連携強化戦略を立てて実行することを検討しています。
■ ILC
提言:
日本がホストするILC 計画推進の為の国際準備組織を立ち上げ、詳細設計等に取り組み、国際協力の枠組みによる建設着手を目指す。
私見:
ILC計画は、昨年7月のLHCにおけるHiggs-like粒子の発見発表と、12月の国際合同チームによる加速器・測定器技術設計最終報告書(Technical Design Report)の完成を機に、急速に実現に向けての動きが活発になってきました。そして、世界の素粒子研究情勢とILCの加速器技術開発実績を背景に、ILC日本誘致の機運が高まっています。
ILC実現のためには、ILCプロジェクトのプロポーザル作成、ILCサイト決定、建設詳細設計、ILC研究所の詳細設計、国際承認プロセスの設計等々、多くの課題が待ち受けています。ICFAのもとに設置されたLinear Collider Board (LCB)とLinear Collider Directorate(LCD)と綿密な連携の下で、日本が率先してこれらの課題を克服しなければなりません。そのための組織形成をこの1月中に行います。これからの私たちの1~2年の活動が日本誘致の勝負を決めます。
最後に例年にならって干支にちなんだ話で締めくくります。今年の干支は巳、すなわち蛇です。そこで、蛇がかかわる諺を調べましたが、蛇は"恐れ"、"嫌われるもの"の代名詞で年頭の挨拶に使えるような諺はありませんでした。しかし、巳年の由来は、冒頭で述べた今年の目標にピッタリです。巳は、"実を結ぶ"という意味だそうです。そのためには、種を蒔かなければなりません。今年はどんどん種を蒔きましょう。次期ロードマップ貫徹のために種をまく、すなわち、KEKの飛躍のための基盤強化の種です。目標達成に向けて足腰を鍛える種です。
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