次世代直線型衝突加速器計画を推進する新組織「リニアコライダー・コラボレーション」発足 -ILCとCLICがひとつに-

 

※KEKも参加するリニアコライダー・コラボレーション(LCC)が立ち上がった件につき、LCコミュニケーションチームからのプレスリリースを翻訳転載します。KEKは加速器空洞や超伝導リニアック加速器、試験加速器の開発を進め、リニアコライダーの実現に貢献しています。

【バンクーバー、2013年2月21日】
世界の最も技術的に成熟した素粒子物理プロジェクト、国際リニアコライダー(ILC)と、コンパクト・リニアコライダー(CLIC)の研究グループが、本日公式に一つの組織に統合されました。新たに設立された「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」は、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)実験を補完する、国際的な直線型衝突加速器の実現に向けた活動の調整と推進を担います。LHCおよびリニアコライダーで行われる実験は、宇宙の謎を解明し、究極的な理解を深めることに役立つものです。

LCCは、前LHCプロジェクト・マネジャーのリン・エバンス氏が率います。また、LCCの副ディレクターには、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉氏が就任しました。

東京大学の駒宮幸男氏は、LCCを監督する新しい組織「リニアコライダー国際推進委員会(LCB:Linear Collider Board)」の委員長を務めます。LCCとLCBの構成委員は、国際将来加速器委員会(ICFA)によって指名されました。ICFAの委員長は、フェルミ国立加速器研究所のピア・オドーネ氏です。

オドーネ氏(ICFA委員長)は「次世代のリニアコライダーの設計および建設に向けた活動が、国際協力によって次のステップへと進んだことを目にして喜ばしく思っています」と語りました。

LCディレクターのリン・エバンス氏は、「LHC実験が最初のエキサイティングな発見を発表した今、次のプロジェクトを軌道に乗せるための力添えができることを楽しみにしています。私は加速器製造の専門家です。日本ではILC活動に対する強力なサポートがあり、間もなくヒッグスを大量に生成する加速器のためのトンネルを日本で掘り始めることができるのではないかと期待しています。同時に、CLIC加速器の技術開発も押し進めて行く予定です」と、述べています。

「ILCとCLICの2つのプロジェクトの目的は、類似していますが、異なる加速技術を用いており、さらに計画の成熟度には差があります。LCBの委員長として、両プロジェクトの進捗を見ることを楽しみにしています」と、駒宮幸男LCB委員長は述べました。

LCCには、遂行される研究領域に対応する3つの下部セクションが設置されています。ILCセクションは、マイク・ハリソン氏(米ブルックヘブン国立研究所)が、CLICセクションはスタイナー・スタプネス氏(CERN)が、また物理・測定器セクションは山本均氏(東北大学)が指揮を執ります。来る2013年6月に技術設計報告書の出版が予定されているILC部門では、実際の建設に備えた準備活動と、加速技術のさらなる進展および設計の最適化が進められます。CLIC部門では、新しいビームの加速方式の研究をさらに進めていきます。物理・測定器部門では、最新の測定器技術と概念の研究を全力で深めるとともに、ILCとCLICが共同で研究をすすめることによる、測定器技術向上の相乗効果を追求します。

ILC国際共同設計チーム(GDE)と、その観測組織であるILC国際運営委員会(ILCSC)は、正式にLCCとLCBに役割を委譲したことになります。しかし、GDEとILCSCは、6月のILC技術設計報告書の完成までは、共同でリニアコライダー活動の推進を行うことになります。

リニアコライダー国際推進委員会(LCB)と、新しいLCC幹部は2月21日(木)にカナダのトライアンフ研究所で行われた合同会議で初めて顔合わせをしました。記者会見の様子は、インターネットでストリーミング配信されます。http://mediasitemob1.mediagroup.ubc.ca/Mediasite/Play/4927082a86c441c3bbf1ee94611b0c131d このストリーミング配信は、通常のウェブブラウザで視聴可能であり、また、報道関係者の質問も受け付けることが可能です。

CERNのLHC加速器における新発見によって、リニアコライダーの重要性はさらに高まりました。この新粒子の質量は126ギガ電子ボルトで、その性質の詳細な精密測定が必要とされています。また、その測定によって、この新粒子が標準理論で予測されている最後の未発見粒子「ヒッグス粒子」であるかどうかが確認されることになります。LHCでは行われる新粒子の詳細測定には限界があります。一方、ILCは電子と陽電子(電子の反粒子)を衝突させるため、より明瞭な衝突反応を得ることが出来ることから、新粒子や、今後LHCで発見されることが期待される様々な現象について、より詳細に精査することができます。

ILCは現時点で、技術的にも、組織的にも、最も進んだリニアコライダー・プロジェクトです。計画開始当初より、1000人を超える世界の科学者らが設計に取り組んでいる真の国際プロジェクトであり、段階的な建設が検討されています。まずは設計エネルギーの半分でヒッグス粒子を大量に生成する「ヒッグス工場」の役割を果たす加速器として運転を開始し、新粒子の精密測定を目指します。次に、設計エネルギーの500ギガ電子ボルトに拡張し、最終的にエネルギーを倍増させ、さらなる未知の物理現象の解明への可能性を拓きます。日本におけるILC誘致の機運が高まっています。

リニアコライダー・コラボレーションとは:
ILCとCLICはCERNのLHC実験の結果を補完することに期待がかかる次世代型粒子加速器です。リニアコライダー・コラボレーションは、ILCとCLICの2つのプロジェクトを一つにまとめ、世界各地で行われている加速器および測定器の研究開発活動を調整します。リニアコライダーの建設開始については、まだ明確ではありませんが、科学コミュニティでは、様々な衝突反応を生成することによって、LHCからの実験結果を衝突加速器でより詳細に研究すべきとの、コンセンサスがあります。

両プロジェクトは、それぞれの研究開発活動を継続しますが、測定器、インフラ開発、土木建築等、両者に共通の研究領域においては、協力して活動が行われることによる相乗効果を追求します。2つのプロジェクトは、異なる開発段階にあります。CLICは2012年に概念設計報告書を出版し、数年のうちに、プロジェクトの実現可能性を示す、技術設計報告書の出版予定です。ILCは、2012年に技術設計報告書の草稿を完成させ、一連のレビューを経て、プロジェクトコストを含む最終版を2013年に出版する予定です。最終版技術設計報告書の完成をもって、バリー・バリッシュ氏がディレクターを務める国際共同設計チーム(GDE)は、正式にその任務を完了します。これは新組織の設立の理由のひとつです。

連絡先: リニアコライダー広報担当チーム communicators@linearcollider.org

ティム・メイヤー  トライアンフ研究所 企画・広報部長
tmeyer@triumf.ca (+1-604-222-7674)

関連画像等:www.linearcollider.org

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