テレビドラマ「ガリレオ」の撮影が行われました
#トピックス4月15日(月)夜9時から始まりました『ガリレオ』(フジテレビ系列)。その第1話で、KEK内での撮影が行われました。
この撮影現場で使われたBelle(ベル)II測定器やSuperKEKB(スーパーケックビー)加速器にまつわるQ&Aをまとめましたので、是非ご覧ください。
関連サイト:フジテレビ「ガリレオ」公式サイト
Q&A
【内海刑事(柴咲コウさん)、岸谷刑事(吉高由里子さん)が湯川准教授(福山雅治さん)を探しに来た場面】
Q1 このシーンで使われた実験施設は何ですか?どんなことに使われているのですか?
A1 湯川准教授が奥に見える丸いドーナツ状の装置は、BelleⅡ測定器と言います。
BelleⅡ測定器は、茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)で、実際に物理学の研究に使われる装置です。現在は改造中なので、穴が空いていますが、研究に使う時にはこの穴に装置をつめ、電子と陽電子が衝突する反応の瞬間を捕えるために使われます。BelleⅡ測定器は、いくつかの測定器から成る複合体で、その大きさは8m×8m×8m、重量は1,500トンにもなります。
また、このBelleⅡ測定器の前後には、電子と陽電子を光速に近い速度で、反対の方向に走らせるための金属製の管が伸びています。その金属製の管はリング状で、全長なんと3km。地下約11mに掘られたトンネルの中を通っています。
では、電子と陽電子を衝突させる実験で、いったい何がわかるのでしょう。
まず、電子というのは電線の中で移動して電流をつくりだすので、私たちにも身近な存在ですが、陽電子って何でしょう?
電子も陽電子も、宇宙を構成するもっとも小さな粒、「素粒子」の仲間で、陽電子は電子とは反対のプラスの電荷を持っています。この陽電子は、宇宙の始まりの時には存在していたけれども今は存在しない"反物質"のひとつであり、KEKではこの反物質の謎を解くために電子と陽電子を衝突させる実験を行っています。
それでは、電子と陽電子を衝突させると何が起きるのでしょう?
光速に近い速度で加速されたこの電子と陽電子が衝突すると、マイナスの電荷とプラスの電荷が打ち消し合うように消滅し、エネルギーの塊になります。しかしその直後、そのエネルギーの塊は、再び別の粒であるB中間子とその反物質である反B中間子になり、そしてそれもあっという間に壊れていきます。
まず、B中間子に注目し、それが壊れる時間と、同時に作られた反B中間子の壊れる時間との差を測定。次に、同じように、今度は反B中間子に注目し、それが壊れる時間と、同時に作られたB中間子の壊れた時間を測定したところ、そうしたB中間子と反B中間子の"入れ替え"でずれがあることがBelle測定器でわかり、反物質がわずかにしか存在しないための条件の一つである「CP対称性の破れ」の仕組みを解明しました。
この解明によって、現在KEKの特別栄誉教授である小林誠博士、名古屋大学の特別教授である益川敏英博士は、2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。ただ、この証明だけではなぜ宇宙全体から反物質が消えてしまったか、ということは説明しきれないため、現在、B中間子以外の粒子についても精力的に実験が行われています。
Q2 湯川准教授のセリフ「IPL7番のCCRを25度左回転してくれ」「僕にとって今重要なのは、TOPとCalorimeterが正常に作動し、ロス無く粒子を検出することだ」はどういう意味ですか?
A2
―「IPL7番のCCRを25度左回転してくれ」
加速器トンネルの側面には既に精密に測量された基準となる点が多数設置されています。
IPL7番というのはIP(Interaction Point、衝突点) L(Left,左)7番目というターゲット台座のことです。ここにCCR(Corner Cube Reflector)という測量用のターゲットを設置します。ターゲットを測量機で覗くときに、ターゲットが正しい向きでないとうまく測量できないため、少し角度を変えるように指示しているのでしょう。
本来CCRはレーザートラッカーという装置で使うものですが、ここでは現場の都合により少々無理をしてTotalStationという測量機を使っています。このように、臨機応変に必要な仕事をするのも優れた物理学者の重要な資質のひとつです。
―「僕にとって今重要なのは、TOPとCalorimeterが正常に作動し、ロス無く粒子を検出することだ」
湯川准教授に聞いてみないと本当のことはわかりませんが、おそらく、先生はTOPの構造を考えておられたのでしょう。TOPの外側にはカロリメターがあり、内側にはCDCと呼ばれる別の検出器が設置されるので、TOPは非常に限られたスペースに設置しないといけません。ここに、TOPの発光体(石英)の板をどう並べると一番効率的にロス無く粒子をとらえられるのか、そのためには石英板を納める箱をどう設計すれば良いのか、光検出器の配置はどうするのか、外側に置かれているカロリメターヘの影響はどうなるのか、限られたスペースにちゃんと据え付けできるのか等々、TOPの構造はそれらを総合的に判断して決定します。
撮影の様子
Q3 『TOP』『カロリメター』とは何ですか?
A3 『TOP』はBelleⅡ測定器で検出される素粒子の識別に使われる検出器の名前で、「Time Of Propagation (伝達時間)」の略です。衝突がおきてから(衝突によって生じる)光が検出されるまでの時間が、粒子の種類により違うことを利用して素粒子を識別します。検出器は湯川准教授のいる帝都大学のほか、名古屋大学やハワイ大学などが中心となって開発しています。
『カロリメター』は粒子のエネルギーを測定する検出器です。今見えている検出器の『穴』のすぐ外側に既に設置されています。中身はヨウ化セシウムの結晶で、粒子が入射したときにそのエネルギーに比例して放出されるシンチレーション光という光の量を測ることにより入射粒子のエネルギーを測定します。カロリメターは帝都大学のほか、ロシアのBINP研究所などが開発しています。
少し難しくなりますが、さらにTOPについて詳しく説明すると...
「Time Of Propagation (伝達時間)とは、「粒子が発生してから検出器まで到達する飛行時間」と、「検出器内の発光体で発生するチェレンコフ光と呼ばれる光が光検出器に到達するまでの時間」の合計を意味します。
粒子の運動量が同じだと、粒子の重さにより速度が変わるので、粒子の種類により飛行時間に差が出ます。
チェレンコフ光は粒子の速度により決まった角度に放出されますが、TOPの発光体である石英は極めて精密に磨かれていて何度反射しても発光したときの角度の情報を失わないので、放出角度により光検出器に到達するまでの時間が変化します。
このわずかな時間の違い(例えば100ピコ秒)を超高性能の光検出器と最新の読み出し回路で測定します。
Q4 湯川准教授や栗林さん(渡辺いっけいさん)、学生さんたちが行っていたのはどういう作業ですか?
A4 このシーンの現場では二つの作業が行われています。
ひとつはカロリメターの動作確認。栗林さんと学生さんが行っている作業です。もうひとつが測量の測定で、湯川准教授が技師の方と行っていました。
カロリメターはすでに設置されて実験に使用されたものの再利用なのですが、3.11の地震や最近行った作業の影響で故障している可能性があります。このときはBelleⅡ測定器の屋上に検出器からの信号を読み出す装置を取り付けて、カロリメター内の検出器がちゃんと動作するか確認していたようです。
今回のシーンでは、どうやら信号がおかしかったらしく、栗林さんや学生さん達はケーブルを疑っていたようですが、この後ちゃんと信号が出ていることは確認されました。
湯川准教授は測量をしていました。加速器というのは非常に精密な装置なので、検出器もそれにしたがって高い精度での設置が必要です。湯川准教授が考えた画期的なTOPの構造は複雑なため、他の検出器と干渉すること無く据え付けられるかどうか確かめるよう、共同研究者から注文がついたのでBelleⅡ測定器の寸法を精密に測量して確認をとっているところです、というのがこのシーンの作業です。
Q5 湯川准教授と一緒に測定をしていたヘルメットの作業員は、普段どんな仕事をしているのですか?
A5 このヘルメットの人は加速器の「電磁石グループ」の技師です。
電磁石グループは、加速器に設置される電磁石の設計、製作、設置、運用などを行いますが、電磁石は非常に精密に設置されなければならないため、一周3kmに及ぶ加速器トンネルの精密な測量も重要な仕事のひとつです。BelleⅡ測定器にも電磁石が備えつけられており、これももちろん加速器に影響するので同じように正確に測量、設置しなければなりません。
そういった理由からBelleⅡ測定器の測量も電磁石グループに協力していただいています。
【内海刑事が湯川准教授にアメリカ研修を告げる場面】
Q6 このシーンで使われた実験施設は何ですか?どんなことに使われているのですか?
A6 このコンテナのような建物はエレキハット(Electronics Hut)といいます。BelleⅡ測定器の各検出器からの大量の信号線や検出器の電源ケーブルはそれぞれこのエレキハットに引き込まれ、ハット内に置かれた読み出し装置、電源装置につながれています。エレキハットの屋上には検出器の冷却装置とソレノイド電磁石の冷凍機等がおかれています。内海刑事や湯川准教授が通った渡り廊下は人間も使いますが本来の目的はヘリウム冷凍機の配管や電磁石の電源の配線を通すためのものです。
このエレキハットは、本来はBelleⅡ測定器に連結されているのですが、今はBelle単独で行う作業のため切り離されています。
撮影の様子 【内海刑事が湯川准教授に事件の概要を伝える場面】
Q7 黄色いテーブルの上に置かれていた模型は何ですか?
A7 BelleⅡ測定器の模型です。きっと、湯川准教授たちはこれを見ながらTOPの設置の仕方を考えていたのでしょう。ちなみに、置かれていたのはテーブルの上ではなくKLM(K Long and Muon検出器)という検出器の一部です。
黄色い容器の中にRPC(Resistive Plate Chamber)という検出器が設置されています。現在、一旦取リ出して内部のRPCを別種の検出器に取り替える作業を行っているところです。
Q8 ホワイトボードに書かれていた数式は何ですか?
A8 ホワイトボードの右上に書かれている三角形がいわゆるユニタリティー三角形で、その下に書かれている行列が小林益川行列(Kobayashi- Maskawa Matrix)です。小林・益川両博士は6種類のクォークを仮定することで「CP対称性の破れ」を証明しましたが、その証明をするうえで必要不可欠な数式です。
小林益川行列にはいろいろな表記法がありますがここに書かれているのはWolfenstein表記と言うもので実験に即した表記法です。この行列の中に書かれているρ(ロー)とη(イータ)で表される複素位相がCPの破れを引き起こします。右上の三角形はこのρとηをグラフィカルに表したもので、Belle実験によりその値が測定され、その結果が小林益川の理論を裏付けたことがお二人のノーベル賞受賞の一因となりました。
注:この記事の記述は概ね事実ですが、番組との整合性をとるため、一部フィクションが含まれています。
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