2014年 年頭のご挨拶
#機構長コラム新年明けましておめでとうございます。年頭にあたり一言ご挨拶申し上げます。
昨年の巳年(み)には、KEKはいろいろな「実(み)を結ぶようまず種をまきましょう」、と申しました。 そこで、昨年の5月には、研究コミュニティでの議論を経て、今後5年間のKEKの進むべき道「新研究ロードマップ」を公開致しました。 それが、長期展望をもって私達がまいた種です。
では、今年の干支である「馬」は何を意味するか。 「馬」(うま)を小林・益川理論により「CP反転」させますと「まう」(舞う)となります。 また将棋の駒で「馬」の字を逆さに書いた「左馬」は、福を招く商売繁盛の守り駒とされています。
つまり、今年は、昨年まいた種が稔り、その実が「舞う」ように、そして福が招かれるように研究活動を進めていきたい、と思うのです。
実が舞う基盤「安全・環境・衛生」の整備
けれども、実が「舞う」前に私達にはやらなければならないことがあります。 新研究ロードマップ完成の直後の昨年5月下旬、私達は日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同運営しているJ-PARCのハドロン実験ホールで、放射性物質の漏えいと作業従事者の被ばく、という事故を起しましてしまいました。 非常に多くの方々に、特に東海キャンパス近くの住民の方々に、多大なご心配とご迷惑をおかけしました。 あらためてここに深くお詫び申し上げます。 KEKは事故を起したことを強く反省し、安全を優先とする体制の強化・整備に向けて機構全体が一体となった改革を始めました。 この改革の取り組みは、これからもずっと続けていかなければなりません。
理念面では、学術研究の自立性が社会からの信頼と付託の上に成り立っているものであることを再確認し、高い倫理性をもって研究活動を実践するとともに、環境・安全・労働衛生に関連する法令、規則等を遵守しつつ、安全で快適な研究・研究環境を実現することを目指して参ります。
組織面では、安全管理責任体制の強化のために、「安全・環境・衛生管理推進室」を機構長のもとに、「安全・環境・衛生管理実施室」を安全担当理事のもとに設置しました。 また、「外部監査委員会」をつくり、安全への取り組みの監査をお願いして参ります。
ハインリッヒの階層構造法則は、1件の重大事故の背景には、29件の軽度の事故・災害の可能性と、300件に及ぶ「ヒヤリ・ハット」の体験が隠れていると指摘しています。 この指摘に学び、つくば、東海の両キャンパスでは、軽微なものも含め、過去数年に現場で起きた様々な事案をリスト化し、それらの要因分析とその後の対応の確認実施に取りかかっています。 具体面の取り組みの一つです。 また、機構職員全員が持ち、共同利用の研究者の皆さんにも目を通して頂くことになっている「安全ガイドブック」を間もなく改訂します。 並行して、キャンパス内でのリスクマップの共有を行い、また安全・衛生教育の充実を図ります。 これらを通して安全文化の醸成に努め、現場での事故を防止するともに、事故時にはより速やかで的確な対応を行えるようにして参ります。さらに、つくば市と連携し、速やかにweb上等での安全関係情報の公開を行うことに関するルールを作り、実行して参りたいと考えています。 目標は、地域の皆様に安心して頂けるような先端研究機関となることです。
さらに実が舞う基盤、「研究支援基盤戦略」の整備に向けて
研究の実が舞うようにするには、もう一つ整備するべき基盤があります。 研究支援のための基盤です。今年は、その強化にも着手致します。
まず、第一弾として、今年春には「研究支援戦略推進部」を新設します。 これは、機構の研究プロジェクトの遂行や、機構の研究戦略に基づく計画実現を支援するものです。 この推進部のもとに、「研究企画支援室」、「国際連携推進室」、「産学公連携支援室」の3室を設けます。
「研究企画支援室」は、研究プロジェクト支援、外部資金獲得支援、若手や女性研究者支援や、機構内研究連携の支援を行います。 「国際連携推進室」は、国際連携戦略の立案、海外研究機関との連携支援、外国人研究者のサポートを扱います。 「産学公連携支援室」は、大学や企業との研究連携、地域ニーズの調査や知財戦略を担います。 それぞれの部、室ではリサーチ・アドミニストレータが研究支援を推進します。
第二弾として、「多国籍参画ラボラトリー」を世界に先駆けて創設します。 これは、巨大化する加速器科学プロジェクトを推進する新たな運営組織の萌芽となるものです。 この試みによって、各国の研究機関の分室を設置して協定を結び、予算・人財・技術を分担する運営方式を確立して国際研究のグローバル化を促進します。 企画・立案・運営には、国際連携推進室のリサーチ・アドミニストレータが関わります。
第三弾は、複数企業の分室を機構内に置く、企業と機構の様々な組み合わせの連携を可能にするプラットフォーム「多企業参画ラボラトリー」の創設です。 長期に渡る最先端技術開発が難しくなってきている企業の現状を鑑み、産学全体としての研究力強化のため、シーズからニーズまでを一体的に創出する体制です。 これの企画・立案・運営には、産学公連携支援室のリサーチ・アドミニストレータが関わります。
更に、これまでの大学との連携で見られたKEKに一極集中した共同利用の在り方を変え、KEKのインフラを最大限に活用しつつ、大学における研究基盤の向上の手助けをおこなう「多大学参画ラボラトリー」もKEKに創設したいと考えています。
ロードマップに沿った研究の推進
素粒子物理の分野では、宇宙の創成・進化の謎の究明を目指す、SuperKEKB加速器が来年より運転を開始します。 東海キャンパスにおいては、引き続きニュートリノのCP非対称の検証を行うT2K実験と、クォークの現象を解明するハドロン実験を推進します。 ヒッグス粒子を発見したCERNの実験では、LHC加速器のルミノシティの向上が図られていますが、そこでは、J-PARCの大強度陽子加速器の技術貢献が期待されております。 こうした中、国際リニアコライダーは、国際的な枠組みの構築に向け進むことが期待されています。
一方、物質・生命科学の分野では、KEKは、世界で唯一の放射光・中性子・ミュオン・陽電子を総合的に用いる「多機能物質構造研究拠点」として世界的な評価を受けております。 つくばキャンパスのフォトン・ファクトリー(PFとPF-AR)と、J−PARCの中性子とミュオンを利用する物質・生命科学実験施設とによる大学・産業界への供用を進めるとともに、今後の放射光科学のありかたについても議論が深まることが期待されます。
安全の確保と研究支援基盤の整備、そして研究の推進により、この一年を実を舞わせる年とさせましょう。
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