宇宙を探る新しい目:低温重力波望遠鏡KAGRAの地下トンネル開通
#トピックス宇宙から飛来する重力波の初検出を目指して、大型低温重力波望遠鏡KAGRAの建設が進んでいます。 KAGRAは、高エネルギー加速器研究機構が東京大学宇宙線研究所(推進中心機関)、自然科学研究機構国立天文台など国内外の研究機関と共に建設を進める「地下」から宇宙を探る望遠鏡です。 高エネルギー加速器研究機構は、加速器科学の最新技術を用いて、KAGRAで最も重要な装置の1つである極低温鏡システムや超高真空ビームダクトの開発を担当し、さらに、重力波天体についての理論的な研究も行っています。
この度、岐阜県飛騨市神岡町池の山で掘削を行っていたKAGRAの地下トンネルが開通いたしました(図1)。
重力波は、アインシュタインの一般相対性理論で予言される重力が波として伝搬する現象です。 一般相対性理論では重力は時空間の歪みであり、その時空間の歪みがさざ波となって伝搬します。 その大きさは非常に小さく、水素原子の100億分の1ほどしかありません。
このように小さな重力波ですが、間接的には存在が確認されています。 米国のハルス博士とテイラー博士は、1974年に連星中性子星という珍しい天体を発見し、その公転周期の減少が重力波によるエネルギー放射に基づくことを突き止めました。 この功績により、両博士は1993年にノーベル物理学賞を受賞しました。
また、つい先日には、ハーバード大、カリフォルニア工科大を中心とする宇宙マイクロ波背景放射偏光望遠鏡BICEP2チームより、宇宙最初期のインフレーション期に生成された原始重力波を発見したとの報告がなされました。 これは、宇宙マイクロ波背景放射の中に残る原始重力波の痕跡を、南極に設置された電波望遠鏡を用いて検出したというもので、他の望遠鏡でも確認されれば、宇宙物理学史上の大発見となるものです。
このように、重力波の痕跡は続々と発見されており、重力波を波動として直接検出することの重要性はますます高まっています。 重力波を波動として直接検出することは、一般相対性理論の直接的な検証という意味だけでなく、電磁波では観測することの出来ない宇宙を探る新しい手段となり得ます。 例えば、ブラックホールや中性子星といった興味深い天体を、直接観測することが出来るようになります。
大型低温重力波望遠鏡KAGRAは、まさしくこのような波動としての重力波を直接とらえようとする国際プロジェクトです。 東京大学宇宙線研究所を中心に、高エネルギー加速器研究機構および国立天文台が推進機関となり、国内28機関155人、国外3機関76人が参加しています。 KAGRAでは、重力波により引き起こされる時空間の歪み(より分かりやすく言えば僅かな距離の変化)を極めて高精度なレーザー干渉計で計測します。 水素原子の100億分の1という小さな重力波を検出するため、一辺が3kmにもおよぶ巨大なL字型のレーザー干渉計を用います。 また、このように小さな変化を検出するためには、レーザー光が照射される鏡の機械的な振動や熱的な振動を量子効果が見えるほどまで低減させる必用があります。 KAGRAでは、地面の振動の小さな地下に望遠鏡を設置し、特殊な防振装置と極低温まで冷却された鏡を用いる事でこのような感度を達成します。 地下の望遠鏡、極低温鏡の2つは、世界でKAGRAだけが持つユニークな技術です。
KAGRAの建設は2010年より始まり、トンネルの掘削は2012年5月より始まりました。 場所は岐阜県飛騨市神岡町の池ノ山(旧神岡鉱山)で、工事は鹿島建設株式会社が施工しました。 まず誘導トンネルの掘削を行い、その後中央実験室部の掘削を経て(図3)、東北東にのびるXアーム、北北西にのびるYアームの掘削を行いました。 2013年12月にYアームが貫通し(図4、図5)、2014年3月末にXアームが貫通して、全ての掘削が無事完了しました。 掘削総延長距離は7,697メートル。たびたびの湧水に悩まされながらも、鹿島建設株式会社のNATM工法により月間掘進距離国内最高記録359メートルを達成するなど、土木工事でも大きな金字塔を打ち立てることが出来ました。
今後は、実験設備の整備、装置の構築を経て、2015年末に試験観測、2017年度に本格的な重力波観測を開始する予定です。 米国やヨーロッパでも、Advanced LIGO 望遠鏡、Advanced VIRGO 望遠鏡がそれぞれ建設中で、重力波初検出へ向けた激しい国際競争が行われています。 これらの望遠鏡が完成した後には、お互いに協力して全天をカバーする重力波観測網が形成される予定です。 この重力波観測網により、少なくとも1年に数回の重力波観測が可能になり、新しい重力波天文学の時代が始まります。
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