KEK小型スーパーコンピュータ「Suiren Blue(青睡蓮)」と「Suiren(睡蓮)」がスパコン消費電力性能ランキング「Green500」でそれぞれ世界第二位、第三位を獲得

 

2015年8月5日

KEKと株式会社ExaScaler、株式会社PEZY Computingが共同で開発・検証している小型スーパーコンピュータ(以下、スパコン)の「Suiren Blue(青睡蓮)※1」と「Suiren(睡蓮)※2」が、米国時間7月31日付けで発表されたスパコン消費電力性能ランキング「The Green 500 List3」にて、それぞれ世界第二位、第三位を獲得しました。

2014年10月に計算科学センターに設置された「Suiren(睡蓮)」は、PEZYの1,024コアの低消費電力型メニーコアプロセッサ「PEZY-SC」と、ExaScalerが開発した新液浸冷却システム「ESLC-8」を4台用い、PEZYとExaScalerが共同開発した小型スパコン「ExaScaler-1」からなる理論性能395TFlops(テラフロップス)4をもつシステムで構成され、新しい液浸冷却方式を採用して非常にコンパクトな設計となっていました。それに加えて、同じく計算科学センターに「Suiren(睡蓮)」に隣接する形で本年6月末までに「Suiren Blue(青睡蓮)」が設置され、初期稼働を開始しています。「Suiren(睡蓮)」が空冷を前提とした市販のマザーボードなどを流用していたのに対して、「Suiren Blue(青睡蓮)」では、独自開発による上下方向に長細い直方体形状の専用の電子基板複合体「Brick(ブリック)」およびこのBrick(ブリック)16本を収容するための液浸冷却槽「ESLiC-32」から構成され、更に液浸冷却に最適化された形となっています。その結果、新しい「Suiren Blue(青睡蓮)」は僅か1台の液浸冷却槽による構成でありながら、4台構成の「Suiren(睡蓮)」と同等の演算性能を約4分の1の設置面積で実現して、面積・体積効率を大幅に高めることができました。

また液浸冷却槽内が高密度化するのに伴い、液浸冷却槽内から引き揚げて保守作業を行う効率と安全性を改善するため、最小構成システムである「Brick(ブリック)」を吊り上げる新たな吊り上げ機構も新設されました。さらに、液浸冷却槽で演算処理装置などから熱を奪った冷媒を室外で冷却するための室外冷凍機と熱交換器についても、「Suiren(睡蓮)」では小型の室外冷却機と熱交換器を8台ずつ接続していたものを、「Suiren Blue(青睡蓮)」では1台の中型室外冷却機と1台の高効率小型熱交換器で代替することで、配管部を含めた室外の構成も大きく簡素化されて、システム全体の保守性も高めることができました。

本年6月末時点の「Suiren Blue(青睡蓮)」の初期起動時の計測結果は、ドイツのフランクフルト市で開催されたISC 2015にて発表されたスパコン性能ランキングTop500において、193.9 TFlopsで392位にランクインしていましたが、同時期に計測した「Suiren(睡蓮)」の206.6 TFlopsで366位には及ばない結果です。これは、メモリをDDR3からDDR4に変更したため、メニーコアプロセッサPEZY-SC1個当たりの搭載メモリ容量が半分に減じられていることが原因でありました。

しかしながら計測された消費電力性能については、「Suiren Blue(青睡蓮)」が1ワットあたり6,952MFlops(演算性能193.3TFlops時)を、「Suiren(睡蓮)」が1ワットあたり6,217MFlops(演算性能202.6TFlops時)を記録しており、これらの計測結果が、米国時間7月31日付けで発表された最新のスパコン消費電力性能ランキング「The Green 500 List3」において、それぞれ世界第二位、第三位を獲得したものであります。

計算科学センターでは、「Suiren Blue(青睡蓮)」と「Suiren(睡蓮)」の他にも、54位の「HIMAWARI」と55位の「SAKURA」の4機が稼働しており、いずれもTop500にランクされています。なおGreen500にランクされた上位20台のうち、8台が日本からのシステムであり低消費電力についての関心の高さが示されています。

今回、世界第一位を獲得したシステムは、理化学研究所の情報基盤センター(和光)に設置された、「Suiren Blue(青睡蓮)」と同機種の「ExaScaler-1.4」による5台の液浸冷却槽で構成された「Shoubu(菖蒲)」でした。その消費電力性能値は1ワットあたり7,031MFlops(演算性能353.8TFlops時)で、「Suiren Blue(青睡蓮)」とは約1%の僅差でした。

「Suiren Blue(青睡蓮)」においても今後も引き続き消費電力性能の改善を図っていきます。計算科学センター5では、液浸冷却方式に特化して開発された「Suiren Blue(青睡蓮)」の「Suiren(睡蓮)」のシステムとしての運用性と、ExaScalerの提唱する液浸冷却方式自体の有効性などについて共同研究を通じて検証して行く予定です。また、素粒子・宇宙・天文などのシミュレーションでの実効性能、低消費電力性能等を含めて、「Suiren Blue(青睡蓮)」と「Suiren(睡蓮)」双方の検証を行っていきます。

Green500の世界第二位、第三位の認定書(Certificate)

「Suiren(睡蓮)」4液浸槽の全景写真(左)と、「Suiren Blue(青睡蓮)」の前面・横面写真(右)

【用語解説】

※1 Suiren Blue(青睡蓮)

計算科学センター内に2015年6月末までに「Suiren Blue(青睡蓮)」として稼働を開始した国産超小型スパコン。わずか1.6平方メートル程の非常に小さな室内設置面積に、超小型の液浸冷却槽1台と冷媒循環用の配管だけの極めて小規模な構成(「ExaScaler-1.4」)となっている。理論上の最大演算性能は倍精度浮動小数点演算で428TFlopsである。

※2 Suiren(睡蓮)

計算科学センター内に設置され2014年11月1日より「Suiren(睡蓮)」として稼働を開始した国産小型スパコン。わずか6.3平方メートル程の小さな室内設置面積に、小型の液浸冷却槽4台と冷媒循環用の配管だけの小規模な構成(「ExaScaler-1」)となっている。理論上の最大演算性能は倍精度浮動小数点演算で395TFlopsである。

※3 The Green 500 List

「Top500」とは、年に2 回スパコンの研究者により発表される世界中のスパコンの性能ランキングで、そのうち1回は国際学会SC(International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)で発表され、もう1回は国際学会ISC(ISC High Performance, The HPC Event)の前後に発表される。ランキングで比較される性能は、指定されたプログラムの実行速度により評価される。Green500リストとこの性能は指定されたプログラムの実行速度により評価される。Green500リストとは、この「Top500」に入る性能を持ったスパコンを、演算処理性能の絶対値ではなく消費電力1ワット当たりの演算処理性能により並べ変えたもので、電力効率の改善が不可欠な次世代スパコンの開発でも重要指標として注目されている。

※4 TFlops(テラフロップス)

1秒間に1回の浮動小数点演算(実数の足し算、掛け算)を行うことができる性能を1Flops と呼び、T(Tera)はその10の12乗(1兆)倍を表している。1TFlopsは1秒間に1兆回の演算が可能。

※5 計算科学センター

KEKでは、高エネルギー加速器を用いて宇宙や生命の誕生、素粒子・原子核・物質の根源などの解明を進めている。計算科学センターでは、国内外の関連分野の研究者に大規模な実験解析システム、シミュレーション研究のためのスパコンシステムの管理運用を行い、関連する研究開発を行っている。

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