研究で蓄積された知見や加速器科学について一般の方に広く紹介し、興味や関心を持ってもらうことを目的とした「KEK公開講座」が6月18日、KEKつくばキャンパスで開催され、一般の方166人が参加しました。今回は、「SuperKEKBで拓く新物理」をテーマに、2月に試験運転を開始したSuperKEKB加速器とそこで起きる素粒子現象をとらえるBelleⅡ測定器について、2人の講師が解説しました。
はじめに、加速器で電子・陽電子ビームを周回させるのに欠かせない電磁石の研究に携わるKEK加速器研究施設の増澤美佳教授が登壇。世界一を記録したこれまでのKEKB加速器からさらに40倍の衝突性実現を目指し改良されたSuperKEKB加速器について、どのように構成されているか、内部の様子や現在の状況などについて写真や動画などを用いて説明しました。
SuperKEKB加速器では、周長3kmのリングの中で70億電子ボルト(7GeV)の電子と40億電子ボルト(4GeV)の陽電子を衝突させるため、電磁石が約2500台配置されています。増澤氏は「電磁石の極性が1台でも間違っていたり、位置が大きくずれていたりするとビームがうまく回りません」と解説。今年2月にはビームが無事に周回したことで、本格稼働に向けて大きく前進した、と研究者としての喜びを語っていました。会場からは、理論から現場の作業についてまで多くの質問が上がり、「前身のKEKB加速器の設備はすべて撤去したのか。再利用はしないのか」との質問に、増澤氏は「利用できるものは利用し、どうしても使わないものは予備としてとっておいたり、電磁石などはほかの機関に譲渡したりして有効利用しています」と答えていました。
Belle II測定器の魅力を伝えた宇野教授の講演の様子
次に、加速器で出現した素粒子現象をとらえる測定器の研究に携わるKEK素粒子原子核研究所の宇野彰二教授が登壇しました。宇野氏は、BelleⅡ検出器については「8m×8m×8mの大きなデジタルカメラだと思ってください」とするなど、検出器の構造や実験の方法、結果の分析方法などについて、たとえを用いながらわかりやすく説明。BelleⅡ検出器は、中性B中間子における大きなCP不変性の破れを測定し、小林誠・益川敏英両氏のノーベル物理学賞をもたらしたBelle測定器よりもさらに精度が上がります。飛躍的に増大する現象に対応できるように、事象を記録する電子回路システムを改良し、無駄な信号を区別する新たな技術も導入しました。
宇野氏は「このような改良を加えたBelleⅡ測定器は今まさに建設の最終段階に来ています。1年後には、小林・益川理論含む標準理論を超える素粒子物理現象を探す最初のデータ収集が始まります」と今後の見通しを示していました。こちらも理論や測定器の性能についてなど多くの質問が上がりました。
また今回は、公開講座としては初めての試みとして講演後、BelleⅡ測定器の施設見学も併せて行いました。
9月4日に開催されるKEK一般公開では、BelleⅡ測定器など普段は公開されていない実験装置・施設の見学や、研究者による講演、こども向け体験コーナーなど、楽しい企画が用意されています。入場無料、事前申し込み不要となっています。