SuperKEKBプロジェクトPhase1が終了しました
#ハイライト #加速器 #素核研SuperKEKBプロジェクトの第一段階であるPhase 1(フェイズ・ワン)の運転がこのほど終了しました。 SuperKEKBプロジェクトでは、SuperKEKB加速器で加速した電子・陽電子ビームを衝突させ、その結果生じる物理現象をBelle II測定器で観察します。 Phase 1とPhase 2では、加速器を構成する機器やBelle II測定器に搭載する各種センサーなどを順次組み込みながらビーム運転を行います。 そして加速器、測定器ともに完備されたPhase 3から、物理実験を行いながら加速器の最終性能であるKEKBの40倍のルミノシティ(ビームの衝突頻度を示す単位)を目指す予定です。
早いペースで進んだビームの立ち上げ
Phase 1の運転は2016年2月1日から6月28日まで行われました。 この運転の主な目的の一つは、できるだけ高い電流の電子・陽電子ビームをリングに周回させて、周回させるビームから放出される放射光を用いてビームパイプ内壁に吸着した無駄なガスを除く「真空焼き」を行うことでした。 この段階ではビームを絞ったり衝突させたりという実験は行いません。 Phase 1ではこの他に、加速器を構成する機器の調整、高いビーム電流での運転に起因する問題点の発見と対策なども重要なテーマでした。
SuperKEKB加速器の運転は、ビームパイプ内部を高い真空状態に保つ任務を担う「真空グループ」、ビームを曲げたり収束したりする電磁石システム全般に責任を持つ「電磁石グループ」、ビームが放射光を放出することで失うエネルギーを補うための加速システムを担う「RFグループ」など様々なグループの確かな仕事の上に成り立っています。 その上でビーム運転全般の研究進行計画を立て、各グループに必要な調整や改造を依頼し、また各グループ間の調整を行うのが「コミッショニンググループ」です。コミッショニンググループの責任者でKEK加速器研究施設の船越義裕教授は、「Phase 1では、ビーム運転のためのシステム構築は順調に進み、ビーム電流を効率的に増やしていくことにより真空焼きも順調に進みました」と話しています。 真空焼きを行うことでPhase 2の運転で想定されるビーム電流でも真空度が十分に良い状態に保たれ、ビームパイプ内に残ったガス分子とビームの衝突でビーム寿命が短くなりすぎたり、後述するBelle II測定器のバックグラウンドが増えすぎたりすることを防ぐことができます。
予想以上に多く発生した「電子雲」とその解決
しかし、船越氏によると「電子雲によるとみられるビームサイズの増大や真空度の悪化などの現象が、予想より早く見え始めた」といい、この課題を乗り越えなければなりませんでした。 陽電子が放出する放射光がビームパイプに衝突することにより発生する光電子や、電子がビームパイプの内壁にぶつかって発生する二次電子は「電子雲」と呼ばれ、この電子雲が陽電子ビームに対して悪影響を与えます。 今回は予想以上に多く発生した電子雲を抑えるため、ベローズチェンバーという部分に新たに約800個の永久磁石を取り付けるなどの対策を行い、問題は軽減しました。 電子・陽電子リングのビームは、垂直方向より水平方向の方がずっとサイズが大きい「横長」のビームですが、ルミノシティを上げる上で垂直方向のビームサイズを小さくする調整が重要で、それを「低エミッタンス調整」と呼びます。 Belle II測定器のインストール後は、測定器が作る強い「ソレノイド磁場」の影響で、垂直方向のビームサイズが大きくなってしまう可能性もあります。 Phase 1ではまず測定器が作るソレノイド磁場がない状態で、垂直方向のビームサイズを十分小さくできるかを検証することが最大の課題の一つでしたが、比較的うまく進めることができました。 船越氏は「様々な現象への対応はKEKB加速器での経験が役に立ちました。KEKB加速器の立ち上げに比べてマシンのトラブルなども比較的少なく、ビーム運転の立ち上げは早いペースで進みました」とPhase 1での運転を振り返りました。
世界中から集まる物理学者チームによる「BEAST実験」
一方、電子・陽電子ビームの衝突で生じる素粒子反応を観測するBelle II測定器はPhase 1ではまだインストールされていませんが、ビームパイプの中で本来の軌道を外れたビームが作る余計な信号を測定するBEAST実験という研究を行いました。 余計な信号は「ビームバックグラウンド」と呼ばれ、本来の素粒子反応を測定する邪魔になるだけでなく、蓄積されたダメージによって、測定器を故障させることもあります。そのため、測定器をインストールする前に、このビームバックグラウンドを詳しく調べて理解しておかなければなりません。
BEAST実験には、ハワイ、アメリカ、イタリア、カナダ、ドイツ、台湾、日本の研究者約20人が参加しています。 実験チームは、Belle II測定器がインストールされる予定の場所に7種類の素粒子センサーを設置、ビームバックグラウンドを観測しました。 BEAST実験に参加しているKEK素粒子原子核研究所の中山浩幸助教は、「様々な運転条件下で、有意義な測定データがたくさん取れました。得られた測定値を、シミュレーションによる予測値と比較する解析を進めています。これで大きな差がみられなければ、Phase 2以降のバックグラウンドの予測値の信頼性が高まるわけです」と実験の意義を解説しています。
また、Belle II実験の代表者の一人でハワイ大学のトム・ブラウダー教授は「世界中から集まったBEAST実験の物理学者チームとKEKのエキスパート・チームは、緊密に連携しながら、電子・陽電子ビームの初めての周回を観察できました。また、加速器の条件変化などから生じる様々な種類のビームバックグラウンドを詳細に測定することができました。実験は大成功でした」と話しています。
Phase 1に続くPhase 2の運転は、2017年秋頃から約5か月間を予定しています。 Phase 2では、KEKBの設計値と同じルミノシティを目指して、衝突点でビームを細く絞る調整やビームを精度よく衝突させるための調整などが行われます。
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