【KEKのひと #19】ビッグバンの種火を観る! 田島治(たじま・おさむ)さん
#KEKのひと #トピックス #公開講座宇宙が誕生した直後はビッグバンと呼ばれる超高温・高密度状態でした。では、その前は一体どうなっていたのか?謎が謎を呼ぶ宇宙のはじまりについて、ビッグバンの残光を計測・分析することで探求しようとする田島治さんにインタビューしました。
―宇宙のはじまりに興味を持たれたのはいつごろからですか?
「高校時代、昼休みには学校の図書館へ行き、『ニュートン』など宇宙に関する本や雑誌を読みながら、宇宙の謎や自分はどこから来たのかということを考えていました。物理の授業も好きで、物理の研究を突き詰めていくと、そのような謎が分かるようになるのだと知り、研究をやりたいと思いました」
―大学院に進まれてからは、どのようなことをご専門に?
「東北大でカムランド実験※1に携わりました。修士論文では検出器の心臓部である『液体シンチレータ』の最終構成を決めるテーマでした。博士の時は、それによる最初のデータを論文にすることができました。周囲のサポートやタイミングにとても恵まれていたと思います」
―学生の時にすでにとても重要な役割を担われていたのですね。
「もちろん研究室の人たちと一緒にやっていたことで、自分だけで決めたわけではないですが、きちんと動いたときはうれしいというよりもホッとしました。もし駄目だったら自分のせいではないかと、実験がスタートするまでの2年間不安で不安でたまらなかったです(笑)」
―その後KEKに入られたのですね。
「2004年に助手として入りました。2008年まではBファクトリー※2で加速器と測定器の境界部分にある検出器や周辺設備の開発に携わりながら、CP対称性の破れ※3やダークマター※4の探索などを行っていました。その後は現在のCMB※5の研究です。今年7月に京都大学に異動しました」
―CMBの研究では、どのようなことがわかるのですか?
「CMBはビッグバンの残光で、現在はミリ波と呼ばれる電波として観測されます。これは宇宙でおきた様々な現象の影響を受けるのですが、それを精密に測定・分析することでビッグバンに先立つ『インフレーション』という現象について知ることができます。人工的には決して再現することのできないエネルギースケールを研究できる"究極の高エネルギー物理実験"です」
―どのような装置で測定できるのですか?
「グラウンドバード※6という2メートル四方程度の大きさの測定器で、現在はKEKにて調整実験中です。来年夏ごろには、大西洋のカナリア諸島に持っていきます。晴天率が抜群に良く、世界一の急斜面と海抜4000メートルの山がある島の高地で、歴史的にも有名な天体観測所なのです」
―カナリア諸島まではるばる運んでいくのですね!ほかに研究で海外に行かれたことは?
「チリのアタカマという高地にクワイエット※7という実験等で数回にわたり長期に滞在しました。観測地は海抜5000メートルにあり、力仕事をするときは酸素ボンベを使ってやります。2か月ほど滞在しますが、冷凍食品などばかりになってしまって2週間過ぎるころには心が折れますね。食べるのが好きなので(笑)」
―研究のモチベーションは何ですか?
「実験装置を作るのも好きで、そのへんに転がっているような発砲スチロールを薄く切って『魔法のフィルター』という電波を通して赤外線を通さないフィルターを作り、特許を取りました。これが世界中で使われ始めています。ひとの固定観念をひっくり返すようなことがしたいというのがありますね」
―ありがとうございました。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)
◎田島さんは12月のKEK公開講座の講師を務めます。
用語解説、関連リンク
※1 カムランド(KamLAND)実験...東北大学大学院理学研究科付属ニュートリノ科学研究センターによる反ニュートリノ検出器。カミオカンデの跡地につくられた
※2 Bファクトリー...異なるエネルギーの電子と陽電子のビームを衝突させ、素粒子反応を実験するための衝突型加速器の研究
※3 CP対称性の破れ...宇宙の存在の根幹に関わる物質と反物質のわずかな違いのこと
※4 ダークマター...宇宙に存在する物質の主成分にもかかわらず、質量を持ち銀河内に局在していること以外は何もわかっていない謎の物質
※5 CMB...宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background, CMB)のこと。その偏光パターンを観測し、原始重力波の痕跡を探索することが実験の最先端。それにより、宇宙創成の謎に探る
※6 グラウンドバード(GroundBIRD)...インフレーション期(宇宙誕生後約10-38秒の世界)に生成された原始重力波の探索を行う計画。地上から大角度スケールの偏光観測を目指す
※7 クワイエット(QUIET)...米国シカゴ大学、プリンストン大学、カリフォルニア工科大学などとの共同実験で、QUIET望遠鏡を用いたCMB観測を実施。
「KEKのひと」これまでの記事
「KEKのひと」は研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です。
【KEKのひと #20】宇宙の成り立ちを探る冒険の旅 長谷川雅也(はせがわ・まさや)さん
【KEKのひと #18】日本の加速器科学の歴史とともに 菊谷英司(きくたに・えいじ)さん
【KEKのひと #17】X線界のアイアンマン 阿部仁(あべ・ひとし)さん
【KEKのひと #16】「研究と向き合い、人と出会う」酒巻真粧子(さかまき・まさこ)さん
【KEKのひと #15】「物理学に出会い、世界広がった」安田浩昌(やすだ・ひろまさ)さん
-
カテゴリで探す
-
研究所・施設で探す
-
イベントを探す
-
過去のニュースルーム