【KEKのひと #23】「物理の楽しさ伝える先生に」中澤美季(なかざわ・みき)さん
#KEKのひと #素核研宇宙にあるまだまだ正体が分からない物質、暗黒物質(ダークマター)。 その観測実験のチーム「NEWAGE(ニューエイジ)」に所属しています。 この世界に足を踏み入れたきっかけは、高校生のころの物理の先生でした。 その先生が目をキラキラさせながら楽しそうに実験する姿から、物理の世界の楽しさに興味を持ちはじめたと言います。
京都出身。物理の世界に飛び込んだのは、高校の物理の先生がきっかけだ。「だんだん先生」の愛称で生徒たちに親しまれるその先生は、物理の授業で目をキラキラさせながら楽しそうに実験をしていた。その姿に惹き込まれ、物理に興味を持つように。物理を専門にする人は、普段の生活の中、多くの人は気が付かないところに疑問を持つ。たとえば、リンゴが木から落ちるのはなぜか。「そのなんで?と思える視点がすごい」。そんな視点が持てれば、「人生楽しいだろうなあ」と感じた。
神戸大学の物理学部に進み、粒子実験全体の基礎を幅広く学んだ。さらに「もっと実験がしたい。まだまだ研究を楽しめていない」と大学院に進学。実験チームは、独自に開発したガスでの検出器を用いて、ダークマターを「風」として検出することを目指しているという。検出器のデータを読み出す集積回路を同大と共同開発しているのが、KEKのエレクトロニクスチームの研究者たちだ。その回路の動作を確認するためのテストボードの開発を、KEKの研究者の指導を受けながら担当している。「KEKに来て作業をすると、変な動作が出た場合になぜかをすぐに聞ける」と、足しげく通う。
修士論文のテーマでもある自作のテストボードは、「TOSHIZOU(としぞう)ボード」と名付けた。小学4年生のころに司馬遼太郎作の「燃えよ剣」を読んで、土方歳三が好きになった。中学の時には東京都日野市にある墓に訪れたり、絶命した北海道函館市の五稜郭を訪れたりと、土方ゆかりの”聖地巡礼”もする。「はかなく散っていく感じと、忠義を最後まで尽くす男らしさ」が魅力なのだという。
ボードのデザインにも新選組のシンボルである浅葱色(あさぎいろ)とだんだら模様を施す。回路図はゼロから教えてもらうところから工夫を重ねて開発した。「開発がうまくいかないときでも、歳三の名前がついているのでがんばれます」と笑う。
修士課程を終えたら、当時のだんだん先生が校長を務める地元の高校へ、物理の教員として就職する予定だ。現在も非常勤講師として授業をしに通う。実験で成功すると生徒たちが「わーっ!」と歓声を上げる、その瞬間が好きだ。医学部などに進学するための手段として物理を専攻する生徒は多いが、「物理そのもののおもしろさを伝えたいんです」と、目を輝かせた。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)
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