【KEKのひと #33】宇宙はどう始まった?寺田隆広(てらだ・たかひろ)さん

 
「宇宙ができた直後にはどんな現象が起きていたのか?」「それを記述する素粒子の理論は何か?」。果てしなく広がる宇宙について、数式で表すことでその謎の解明に迫るKEK理論センターの寺田隆広さん。宇宙の物語を数式で紡ぎ出す理論家の素顔とは?

宇宙を数式で表すことで、その謎の解明に迫る寺田隆広さん

―現在どのような研究を?

「理論センターには、素粒子現象論、格子QCD、弦理論・場の量子論、宇宙物理理論、ハドロン原子核理論というテーマに分かれたグループがあります。その中の宇宙物理理論グループに所属し、宇宙の膨張や時空の揺らぎについて、理論的に説明する研究をしています。素粒子グループのメンバーとも共同研究をしています」

―いつごろから宇宙に興味を持たれたのですか?

「小学校低学年のころから、『宇宙はどう始まったのか?』『宇宙の果てはどうなっているのか?』ということを不思議に思っていました。当時、学校の担任の先生との交換日記のような『あのね帳』というのがあったのですが、宇宙の疑問について書いたら、担任の先生がアインシュタインの相対性理論について紹介してくれて、それからブルーバックスなどの物理の解説本を読むようになりました。大学は東京大学に進学し、博士課程まで素粒子理論・宇宙理論を勉強・研究しました」

―実験よりも、理論に進もうと思われたのはなぜでしょう?

「大学でも実験の演習がありますが、実験は教科書通りの結果にならず、そこが難しく感じました。素粒子物理実験では、予想外の結果から新しい発見につながることがあるのでその考察が大事だと言われていますが、自分の場合はそこが大変だなと」

―大学博士課程を卒業後はどちらに?

「ドイツのDESY(デジー)という高エネルギー物理学の研究所で約8か月間、素粒子論的宇宙論の研究をしました。その後、韓国のアジア太平洋理論物理センター(APCTP)、同じく韓国の物理、数学、計算科学の研究機関KIAS(キアス)でそれぞれ8か月ほど、宇宙初期のインフレーション理論などについて研究しました。当初の想定と違うこともありましたが、新しいことに挑戦できて、良い経験となりました。KEKに来たのは2017年です」

―KEKでは一日をどのように過ごしていますか?

「朝出勤すると、世界中の雑誌投稿前の論文が読めるアーカイブサイトがあるのですが、そこでおもしろそうな論文に一通り目を通し、メールチェックなども行います。あとは計算したり、論文を書いたり、同僚と議論をしたりですね」

―どのようなときに議論になるのですか?

「先日は、別の理論グループで研究をしている同僚が、部屋にのそっと現れて『ちょっとあの件について議論しましょう』と。白熱すると、時間が経つのも忘れて議論に熱中してしまいます」

―現在、世界中で様々な実験がされていますが、先5年くらいのスパンで期待することは何ですか?

「暗黒物質の探索実験などで、新粒子の発見などといった新しい実験結果が見つかれば、理論の世界でもブレークスルーがあっておもしろいのではと思います」

―ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)




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