【KEKのひと #43】世界の建設現場で安全管理 古川圭三(ふるかわ・けいぞう)さん
#KEKのひと #素核研フィリピン、アラブ首長国連邦、シンガポール、アルジェリア。大手建設会社の国際支店に所属し、世界各地で巨大建設事業のプロジェクトマネージャー(プロマネ)を務めてきた古川さん。KEKではその経験をもとに、実験現場での安全管理にあたっています。海外での経験などについて古川さんに聞きました。
前職の建設会社ではどのようなことを?
「神戸大学の大学院で土木工学を学び、1981年に大成建設に就職しました。海洋の新型消波堤を考案し、その模型を使って、波でどういった力が働くか、消波効果はどうなのかといった研究開発をしていました。さらに、バブル全盛期だったので、その消波堤に水族館やホテル、商業施設などを併せた『ネバー・ネバーランド』という人工島の構想発表にも携わっていました」
バブリーですね。仕事していてとてもおもしろそう。
「でしょ。当時は都市や海洋、宇宙での巨大開発プロジェクトの構想を新聞で発表して、構造物の建設を含めた将来のプロジェクト実現を目指すというスタイルだったのです。大手の建設会社がこぞって様々な構想を発表していましたよ。当時のそういった構想が、大成建設の140周年記念サイトにネバー・ネバーランド含め、『未来プロジェクト』としてたくさん載っています」
海外へ行かれたのはどのようなきっかけで?
「神戸大では河川工学をやっていて、海洋工学を本格的に勉強したいなと、アメリカのオレゴン州立大学に89年から2年間留学しました。学んだことを元に『帰国したらおもしろいことができるぞ!』と勇んで帰ってきたら、ちょうど91年にバブル崩壊。以前のような夢のような構想は描けなくなり、現実的な話ばかりになってしまいました」
そこで外へ出ようと。
「ここが人生の一大転機でしたね。過酷な環境である海外の現場に希望していく人は、社内ではとても少なかった。でも留学以来、海外への興味が抑えきれなく、そこへ立候補して国際支店に異動となりました。海外の仕事は、ガチンコ勝負で本当に面白かった」
どのようなことをされていたのですか?
「海外の公共事業はすべて国際入札で、主に英語で書かれた仕様書を読み込んで、例えばセメントや鉄筋がいくらで買えるのか、どこから調達するかといったことを現地調査したり、現地のどの下請けに発注するか交渉したりして、仕事を取りに行くのです。それで仕事が取れたときは、うれしいですね」
どのような海外事業に携わっていたのですか?
「フィリピンの灌漑用ダム工事、UAEアブダビの250キロに及ぶ送水管工事、シンガポールでは地下駅4つとそれらを結ぶ上下線のトンネルを掘る地下鉄工事にプロマネとして携わってきました。アルジェリアでは総事業費数千億円以上の基幹道路工事で、7つの現場を束ねるHead Quarter(ヘッドコーター)として工事管理に携わりました」
そこからなぜKEKへ?
「アルジェリアから戻ると50歳後半になり、自分より若い社員が動かしている海外の現場へはもう戻れないなあと感じていました。長く海外の現場にいると、大会社の本社勤務はそれなりに窮屈でした。日本の通勤ラッシュもどうも息苦しくて。つくば、いいなあと(笑)幸いこちらに採用して頂き、前職はちょうど潮時だと思い辞めました」
現在はKEKで安全衛生管理者をされていますが、海外の現場の安全状況はどうでしたか?
「シンガポールでは施主の安全管理への要求がとても厳しく徹底されていました。プロマネは国の安全講習を1週間受けなくてはいけない、足場の建設は資格を持った業者を使わなくてはいけない、毎月1回施主のプロマネと安全巡視を行うなど、厳しく制度化されている。安全評価が契約内容に入っているため、報酬として増減します。安全評価が高いと月に数百万円プラスなど。安全の報奨金だけで契約上最大数千万円から億の差が出る可能性もありましたが、最終的にいくら払われたのか覚えていません。下働きの他国からの労働者にもそれは徹底されていて、例えば足場をよじ登る、ヘルメットをかぶらないなどの不注意が続けば解雇され国に送還されてしまい、逆に安全評価が高いと安全表彰と一緒に電話のプリペイドカード等が賞品としてもらえたりします。アメとムチが分かりやすいですね(笑)」
なるほど。そこまで徹底したら、安全対策にも意識が行きますね。
「KEKつくばキャンパスでは、今のところ大きな安全対策上の問題は見当たりません。でも通路のないような実験室内で仕事をしていたり、棚の上に重いものを積んでいたり、ドアの前に大きな棚を固定せず置いていたりなど、巡視していると目につくものはその都度指導しています。普段は問題なくても、大地震が起きたら危険ですからね。人間のやることなので、ちょっとした不注意で大きな事故を引き起こしてしまったりします。いかに普段から一つ一つの行動を意識をしてもらうかが課題といえます。毎年実施している安全・衛生週間の特別講演にもっと沢山の職員が参加してくれるように、さらなる安全意識の向上に努力したいと考えています。」
ありがとうございました。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)
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