「2015年のノーベル物理学賞は、ニュートリノの質量を発見した功績で、東大宇宙線研究所梶田所長が授賞しました。宇宙線は銀河系のはるか外を旅してきた陽子が地球の大気にぶつかり、地上に届いているものです。梶田先生の実験では、宇宙線が大気と衝突したときに発生するニュートリノを地下1000mに設置された「スーパーカミオカンデ」をもちいて観測しています。一方、今回皆さんに見ていただく装置「スパークチェンバー」は、宇宙線がガス中を通り抜けた時に発生するイオンを用いて、宇宙線の軌跡を目で見えるようにしたものです。スパークチェンバーで宇宙線を見ながら、カミオカンデ実験でどのように「ニュートリノの質量」を発見したかを解説します。
KEKでおこなわれているBELLE II実験は「KEKB加速器」で人工的に素粒子を発生させます。エネルギーは高くありませんが、現象を精密に測定することで、素粒子をつかさどるルールを探るための実験です。
加速器や測定器を構成する本物の部品を見ながら、KEKB加速器とBELLE II 測定器の働きを学びます。
最後に実験室に入り改造中のBELLE II 測定装置を見て KEKB実験全体の様子を体感します。
「光の工場」という意味のフォトンファクトリーは、さまざまな物質や生命の姿を、原子・分子のレベルで見るための光「放射光」を作り出す加速器です。
フォトンファクトリーで主に使われているのは、人間の目で捉えられる光「可視光線」より波長が短い(エネルギーが高い)真空紫外線、軟X線、X線と呼ばれる波長(エネルギー)域の光です。原子の大きさ程度の波長を持つ光、物質の内部の電子を外に飛び出させるのに十分なエネルギーを持つ光を使うことによって、分子や原子といった極微の世界を初めて観ることができます。
フォトンファクトリーではいろいろな分野の研究が行われていて、それぞれ特色のある装置が使われています。今回のツアーでは代表的な装置をいくつか見てみましょう。どんな試料に、どうやって放射光をあてて、得られる信号をどうやって検出しているのでしょうか。
放射光を用いる研究分野のひとつに「構造生物学」があります。生命現象を司るタンパク質などの分子の構造を原子のスケールで解くことにより、その分子がどうやって複雑な機能を果たしているのかを研究しています。今回のツアーでは、構造生物学実験準備棟を訪れ、構造生物学の一連の研究の流れを体験していただきます。ここでは、女性研究者が、どんな研究をどのように行なっているのでしょうか。
ERLとは、フォトンファクトリーのような従来の蓄積リング型光源では実現不可能な超高輝度・短パルスの光を生み出すことができる、次世代の放射光源加速器です。その名のとおりビームを一度しか加速しないライナック(線形加速器)をベースにした加速器で、蓄積リングとは異なり常に質の良い新鮮なビームを使って放射光を作り出します。放射光を出し終えて不要になったビームは廃棄しますが、その前にビームに与えたエネルギーのほとんどを回収して次のビーム加速に利用することで、消費電力の大幅な削減と安全なビーム廃棄を実現しています。このような“エネルギー回収”は、一度加速したビームを再び同じ加速空洞へ戻すことによって行われるため、ERLはライナックでありながらリング状の形をしています(下図参照)。そのおかげで蓄積リングと同じように多数のビームラインを設けることができ、多くの人が同時に放射光を利用できるのもERLが持つ大きなメリットです。
このように、ERLはライナックと蓄積リングの優れたところを両方兼ね備えた魅力的な放射光源加速器であり、世界各国でその実現に向けた努力が続けられています。今回のツアーでは、将来の大規模なERLで必要となる基盤技術の実証を目的としてKEKに建設された試験加速器“コンパクトERL(cERL)”を見学します。cERLは周長が約90 mと加速器としては小型ですが、ERLに必要な要素をすべて備えています。2013年12月に完成したばかりの最先端加速器で、現在はその性能向上を目指した調整運転の真っ最中です。良質な電子ビームを生み出す光陰極DC電子銃や、そのビーム品質を保ったまま高エネルギーまで一気に加速する超伝導加速空洞など、最新の構成機器を間近でご覧いただけます。
図.cERLの全景と電子ビームの軌道
cERLの仕組みをもっと知りたい方はこちら ⇒ http://youtu.be/XvM7Fn28U6g
宇宙初期に迫る高エネルギーの反応を作り出すことによって、宇宙創成の謎、時間と空間の謎、質量の謎を解明することを目指す国際リニアコライダー(International Linear Collider, ILC)の実現に向けた研究開発が進められています。
ATFは、国際リニアコライダーで必須となる極小電子ビーム(ナノビーム)の技術開発を行う先端加速器施設です。高周波電子銃、電子線型加速器、ダンピングリング、ビーム取り出し計測ライン、最終収束試験ビームライン(ATF2)から構成されています。ダンピングリングで生成される世界最高レベルの高品質電子ビームを利用して、ナノビームを実現・安定に制御するための技術開発を行っています。世界中の大学・研究機関から大学院生をはじめとする多くの研究者が参加しています。
電子線型加速器 ここは電子ビームを生成する高周波電子銃から始まる約70mの線型加速器を見ることができます。ビームラインには電磁石、ビームの通り道を作る真空パイプ、高周波加速空洞のほか、ビーム診断装置が並んでいます。 |
|
ダンピングリング 線型加速器から送られてきた電子ビームを世界最高レベルの高品質電子ビームに変換する特殊な円形加速器です。ビームラインには様々な電磁石が所狭しと並んでいます。 |
|
最終収束試験ビームライン(ATF2) ここではダンピングリングから送られてくる高品質電子ビームを利用することで実現できるナノビームの研究を行っています。国際リニアコライダーで必須となるナノメートルの極小ビームに絞り込む技術とその位置をナノメートルで安定化させる技術の開発を行っています。 |
● ILCとは?
ILCとは「国際リニアコライダー加速器」の事。電子や陽電子を高いエネルギーまで加速し、衝突実験を行なう直線型加速器で、その実験により素粒子物理学で謎とされている多くの疑問に答えようというものです。約30kmの長さの巨大な加速器が必要で、国際組織を作って全世界の研究者がその設計や技術開発を共同で行なっています。鍵となる技術は超伝導加速技術であり、それはニオブ製の加速空洞を極低温まで冷却する事で小さなマイクロ波電力で大きな加速電界を作り出す技術です。
● 先端加速技術:超伝導加速技術
ILC加速モジュールには内部に9台の加速空洞が接続されており、絶対温度2度(-271℃)まで冷却するための液体ヘリウム配管や断熱シールドが組込まれます。その上で、内部は真空に排気されます。外からの熱が加速空洞に伝わらないように細心の設計がなされています。超伝導空洞に大きな加速電界を作るためのマイクロ波を供給する入力カップラー、マイクロ波導波管が接続されます。KEKにおいても、このILC加速モジュールの設計、製作、試験運転を行なっていて、開発された技術は国際組織における合同設計に生かされています。
ILC加速モジュールの断面図
● 超伝導加速空洞 超伝導加速空洞はニオブというレアメタルから作られます。ニオブは絶対温度2度(-271℃)で良好な超伝導状態になります。加速空洞は9つの加速セルが連結された形状をしており1300MHzの周波数のマイクロ波で加速電場を作れるような設計になっています。 |
ILC加速空洞の断面図 |
≪超伝導空洞の開発≫ |
|
空洞内面検査器 |
●高加速電界の空洞開発 高加速電界の超伝導空洞を開発するために、本研究グループでは何が空洞性能を阻害するのかを研究しています。 製造時の電子ビーム溶接の品質が性能を大きく左右しますので、それを高精度に検査する高分解能カメラシステムを開発して製造にフィードバックしています。製造時に生じた数10μmという小さな欠陥をも見逃しません。 |
クリーンルームでの作業 |
超伝導空洞の内部には一切のゴミの混入は許されず、そのため高清浄度(クラス10)のクリーンルーム内での組立て作業となります。0.1μmというごく小さなゴミでもその混入を許しません。 超伝導空洞の性能試験は縦型クライオスタットを使用して液体ヘリウムを充填した電界試験が行われます。ここでも超伝導状態が破れ発熱する箇所を特定するためにいろいろな計測装置が使われます。 |
空洞用電解研磨処理装置 |
●空洞内面の表面処理技術 高性能な加速空洞のためには空洞内面は凹凸の無い鏡面が必要です。これまでの開発研究では電解研磨技術を用いた表面処理がもっとも高性能を達成しています。本設備でもこの電解研磨設備を導入して超伝導空洞の表面処理を行なっています。研磨後の表面の凹凸は1μm程度以下の鏡のような面となります。 |