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素粒子のフレーバーとアノマリー? 北原鉄平

橋本 今日は、KEK理論センターの北原鉄平さんに研究のお話を伺います。 北原さんは、名古屋大学・素粒子宇宙起源研究所(KMI)と KEK のクロスアポイントメントで、両方の研究所でご活躍です。よろしくお願いします。
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北原 よろしくお願いします。 橋本 北原さんの研究内容というのは、非常にざっくり言うと、どういうことなんでしょうか。 北原 はい。私の研究内容は、フレーバーの物理を用いた、素粒子標準模型を超える未知の物理の探索です。 橋本 素粒子標準模型というのは、今のところあらゆる実験結果を説明できると考えられている理論ですが、人々はそれでは満足していない。 北原 そうですね。満足している人は、おそらく少ないと思います。 橋本 素粒子物理でそういうことが言われ始めて、もうかなり長くなるような気がするんですけど、どこを見ると、標準模型からのずれというのは見えてくると、個人的には思ってらっしゃるのですか。 北原 いろいろと手法はあると思うのですが、やはり期待ができるのはフレーバー探索です。というのも、標準模型からのずれを探索することに様々な点で長けていること、さらに、すでにずれの兆候が見えてきているので、あとはその精度を上げるだけでいけるかもと期待もされています。 橋本 フレーバーというのは、「香り」なんですけど、素粒子の世界では?素粒子の種類? 北原 はい。最近使うようにしているのが、種類というか、「個性」です。 橋本 個性? 北原 素粒子それぞれの個性を精密に調べると、なにか標準模型のほころびが見える。 そういうのを、詰める分野だなと思っています。種類って言うとなんかあんまり具体的に思い描けない、想像できないんですけど、個性を識別するっていうと、だいぶ理解できるかなと思って。 橋本 なるほど。私達の世界を作っているのは、陽子、中性子というか、クォークと電子、なわけですけど、それにもいくつかあって、その個性を。知りたいと。 北原 素粒子ごとの、種類の「個性」。あるいは特性ですね。 橋本 素粒子って、こんな小さいものなんですけど、そのどこに、個性があるんですか? 北原 例えば、クォークは質量が違うんですね。 橋本 はい。 北原 クォークは実際、ハドロンの中に入っちゃってるので、ハドロンつまり、中間子やバリオンとしての性質には、クォークの特性が反映されている。そう考えて、その中間子とバリオンの精密測定をする、というのが、やっていることだと思います。 橋本 例えば? 北原 一番目を引くのが、CPの破れ。CP対称性の破れ、というものがあるんですけれども。その理論は、名古屋大学でほぼ提案されたようなもの(小林益川理論のこと)で、KEKが測ったもの(Belle実験)です。 橋本 そうですね。だから、北原さんの所属されている名古屋大とKEKの絆みたいな。KEKでそれが見つかったのはもう20年前になるんですかね。それが、まだやってるんですか? 北原 はい。まだぜんぜん現役です。 橋本 昔見つかったものとは何がちがうの? 北原 昔はただ単にあったとか、なかったとか、そういう話だったけど、今はそれらの整合性が取れているかっていう時代に入ってきています。図を用意したんですけども、ここに三角形があります。これは、カビボ小林益川行列と呼ばれている、クォークのフレーバーを混ぜる行列の満たすべき性質(ユニタリー性)を図に表しています。ここでは三角形の高さを、CPの破れと定義しています。標準模型の場合は、頂点は一個しかないはずなので、この整合性を確かめたい。辺を測る実験や、角度を測る実験、高さを測る実験、全部を組み合わせて、CPの破れの理論が本当に整合性を取れているかを調べるというのが、今みんなが世界中でやっていることなのです。
三角形
橋本 なるほど。小林益川理論が実験的に証明されてノーベル賞は出たんだけど実は、それが唯一の確実な解ではないかもしれない。 北原 はい。それは多分、信念的にはみんなそう思っています。われわれの宇宙はそもそも、物質だけでできている。つまり、宇宙に物質・反物質のアンバランスがあるという理論を、我々は、甘んじて受け入れているわけですが、実は、宇宙のインフレーション理論を踏まえると、物質と反物質の数は、ほぼ一緒でないといけないということがわかっていて、唯一物質と反物質の非対称性を生み出さるのが、こういうCPの対称性の破れのプロセスなんです。ただ、ある意味、(ユニタリー三角形の)高さが届かないことが知られていて、我々が今ここにいることと、このCPの破れがまだつながっていないということがわかっているので、これ以外にもCPの破れはあるだろう。言い方を変えると、この三角形は閉じない可能性が高いだろうと、思っているわけですね。 橋本 いままでの測定で、三角形の一部は測られたんだけど。実はそれだけでは。宇宙はこんなふうに存在できないからまずいではないか、と。 北原 そうですね。 橋本 なるほど。じゃあここを探せっていう、一番のおすすめは、というのはありますか。 北原 僕の個人的なおすすめは、K中間子の精密測定です。この三角形は、主にB中間子の測定をベースに、書かれているんですけど、K中間子の情報も乗せられるんですね。K中間子の情報はある限られた制限しかつかないですが、将来の実験で三角形の高さのダイレクト測定ができるはずなのですね。これができるのがおそらく、K→πννやK→μμというチャンネルなのですけど、これはまだ実験中でまだはっきりと観測されていないチャンネルです。 まず、高さを先に測れるのは、J-PARCでやっているKOTO実験です。K→πννを使う。ただ、おそらく誤差が大きくて、どこまで迫れるか未知数なところもある。一方、LHCの関連実験でも別のチャンネルを測ることができるはずです。これらを使って、標準理論の整合性を調べるのに興味があります。 橋本 これまでの実験でわかったことが積み上がっていって、その先はどうなっているか、なにを調べればいいかというのを、提案するのが理論家の役割ですが、いまJ-PARCでやっているK中間子の実験の結果が出たら、次はこうやるというのを北原さんはもう考えている、ということですね。 北原 そうです。 橋本 すばらしい。だから、そういういろんな実験の結果を組み合わせることで、標準模型を…。 北原 標準模型自体を調査する。これがまずメインストリームですね。 橋本 はい。 北原 ところが、これまでの実験結果を見ると、すでに標準模型とのずれがちらほら見つかっているんですね。 橋本 ほおー。 北原 それはフレーバーアノマリーと言われています。メインストリームがあって、さらに、アノマリーがあるというのがこの分野。アノマリーというのは、標準模型では説明できない、つまり三角形の範疇を超えたシグナルが見つかっているんですけれども、それをどう思うか。 橋本 三角形の上でずれを探しましょうというのは大きな話であったけれども、そんなところまでいかなくても。 北原 いかなくても、すでに見えちゃうっていう。 橋本 それはどうしてくれるんだ、というのも考えておられる? 北原 そうですね。この変なシグナルは、こういう理論だったらば、起こり得るとか、起こり得ないとかいう判定を、計算しているというのが仕事となります。 橋本 なるほど。北原さんのおすすめの模型はありますか? 北原 個人的には、超対称性なのですけど、今のおすすめは、レプトクォーク模型。
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橋本 あれ?超対称性はちょっとおいといて? 北原 信念を取るか、現実を取るか。 橋本 超対称性は絶対あってほしい、という信念はあるけど、今はレプトクォークなんですね。 北原 レプトクォークとは、レプトンとクォークを統一したような模型があったときにある、素粒子のことを言うんですけれども。 橋本 電子とクォークがくっついたようなもの。 北原 そうです。統一した理論があったときに、その奥に入っている粒子のことなんですけど。 橋本 というのが、いまちょっと有望ではないかなと。 北原 有望ではないかと世界中の人が考えていると思います。そもそもこれまでの歴史では、力の統一を行ってきたわけじゃないですか。 橋本 はい。 北原 電弱相互作用が電磁気力と弱い力を統一した、その次ですね。強い力と、電弱利用の統一が大統一理論上としてあるだろう、というのがメインストリームですけども、力とはまた別に、物質が統一、つまりレプトンとクォークが実は起源なのだ、と。例えば、ほんとはカラーが4種類あって、最初の3つが赤緑青。4つ目が実は、レプトンとして見れるのではないかという理論です。そこでは、レプトンはある種、クォークの一部として、取り込めるんですけれども、そういうある種エキゾチックな統一も、もちろん論理的にはあり得ると。力でなくて、物質の統一も見え始めているのではないかというのが、この分野がいま熱い理由の1つです。 橋本 ヒッグス粒子が10年前に見つかって、その後なにも出てこないじゃないかっていう話はときどきあるんだけど、実はそうでもなくて、よく調べてみるといろんなところに異常があって、実はそれは物質が統合しているということかもしれない。 北原 そうです。 橋本 それはエキサイティングな。 北原 ちょうど先週のイタリアで開かれた国際会議で、LHCのCMS実験が速報で出してきたのですけれども、レプトクォークをコライダーで探したら、その兆候があった。 橋本 あった? 北原 これで盛り上がっていて。ほんとにそうなっているのか。ほんとにあるのか驚いているんですけれども。 フレーバーの実験で、今まで示唆されていたレベルじゃなくて、陽子をぶつけたら、なにかあったという話なので。ちょっと次の段階に入ったのかな、という感じです。 橋本 じゃあ、いま素粒子物理の転換期に、もしかしたら、いるのかもしれない。 北原 公平に言うと、ATLAS実験というCMS実験と同じことをできるグループがあって、ATLAS実験グループが、同じことをしてやはりあったら本当だと思います。なかったら、統計エラーですね。それまでわからないですけれども、個人的には、レプトクォークが見つかると興奮します。 橋本 それは、やっぱりすごいですね。理論研究の中でも、いま見えている現実に一番近い研究をしているのが、北原さんで、実は、そこはとても面白いなというのがよくわかりました。これからのご活躍を期待しています。 北原 ありがとうございました!

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