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超弦理論の新たな数値シミュレーション、虚時間に関する長年の仮定に一石を投ず
—西村淳教授らの研究論文がPhysical Review Letters誌に掲載されました。
KEK理論センターの西村淳 教授らは、宇宙を記述する超弦理論の数値シミュレーションを行い、これまで研究者の間で広く信じられていた虚時間の理論と実時間の理論との等価性が、この場合は成り立たないことを示し、その研究成果がPhysical Review Letters 誌に2025年5月27日(米国東部時間)、掲載されました。
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.134.211601
虚時間の理論とは、実数値をとる時間を純虚数(2乗すると負の実数になる仮想的な数)に置き換えて構築する理論のことを指し、こうすることにより、時間座標を空間座標と対等に扱えるようになることが、アインシュタインの相対性理論から導かれます。こうした手法は素粒子論における様々な研究の基礎になっているだけでなく、宇宙が無から創成した際に起こったとされる「量子トンネル現象」を記述するのに、ホーキング博士らが用いたことでも良く知られています。このため、宇宙を記述する究極の理論と目される(9+1)次元時空上の超弦理論から(3+1)次元の膨張宇宙が出現するかといった問題を研究する際にも、しばしば虚時間の理論が用いられてきましたが、今回の計算により、少なくとも超弦理論のように時空そのものの量子効果を含む理論では、虚時間の理論と実時間の理論の等価性が一般に成り立たないことが明らかになりました。今後、実時間の理論の数値シミュレーションをさらに発展させることにより、宇宙の始まりなど様々な問題が解明されていくことが期待されます。この研究は、総研大素粒子原子核コースの学生さんであるChien-Yu Chou氏、Ashutosh Tripathi氏との共同研究に基づきます。