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超対称変形された弦理論のシミュレーションで見えてきた、 行列から創発する時空 —西村淳 教授らの研究論文がPhysical Review Letters誌に掲載されました。

 KEK理論センターの西村淳 教授らは、超対称性を保つ変形を加えた弦理論の数値シミュレーションを行い、行列から創発する時空を探るための物理量を具体的に計算するとともに、変形パラメタをゼロにする極限でも元の理論が再現されないという謎に対して明確な理解を与えました。その研究成果がPhysical Review Letters 誌に2025年11月24日(米国東部時間)、掲載されました。
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/y1rm-n85b

 弦理論は量子重力の有力な候補であり、そこでは時空さえも量子力学的に揺らいでいます。この弦理論の基本的な力学的自由度は、いくつかの巨大な行列であり、そこから時空及びその上の様々な種類の素粒子が力学的に現れると広く信じられています。そのような行列模型を用いた弦理論の定式化においては、行列から創発する時空がどのようなものになるかが重要な問題となります。最近この問題に対する一つの答えが、弦理論に超対称性を保つ変形を加えた場合について得られ、変形パラメタが一定の範囲内にあるときに、創発する時空の幾何が特定されました。西村教授らはこの変形された行列模型の数値シミュレーションを注意深く行い、創発する時空を探るための様々な物理量の計算を具体的に行いました。さらに、こうしたシミュレーションにより、変形パラメタをゼロにする極限をとっても、なぜ元の模型が再現されないのかも明らかにされました。変形された模型には新たにポテンシャルの最小値が現れる一方、その最小値を与える行列の配位が上の極限においては無限遠に行ってしまうために、元の模型では見えなくなってしまう、という原因によるものでした。これは、理論に僅かな変形を加えることによって、全く別の結論が導かれる興味深い例を示しており、理論物理学の様々な分野に大きなインパクトを与えるものと期待されます。
この研究は、総研大素粒子原子核コースの学生さんであるChien-Yu Chou氏、Cheng-Tsung Wang氏との共同研究に基づきます。


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