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人工細胞膜の変形挙動を解明

物構研トピックス
2012年12月11日

KEK物構研の山田悟史(のりふみ)助教は人工的に作成した摸倣生体膜の小胞(ベシクル)が温度変化によって開口し、平板状(ナノディスク)に変形した後、ナノディスク同士が融合して再びベシクルへ変形することを発見、東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設の中性子小角散乱装置SANS-Uを用いたナノスケールの構造観察により、その仕組みを明らかにしました。

私たちの体を構成している細胞やその小器官はリン脂質と呼ばれる両親媒性分子(石けんのように親水部と疎水部を有する分子)からできた生体膜で仕切られています。生体膜の最も重要な役割は物質の流出入を防ぐことですが、流出入を完全に閉ざしてしまっても細胞は死んでしまいます。そのため、タンパク質が介在することによって膜に細孔を形成したり、膜自体を分離・融合させたりすることによって、うまく物質の流れを制御しています。その際に起こるリン脂質膜の変形メカニズムを知ることは、膜の細孔形成や融合・分裂を理解する上で重要な知見といえます。

山田氏はこのリン脂質膜の融合・分裂を理解する手がかりとして、通常のリン脂質と疎水部を極端に短くしたリン脂質を混ぜることによって自発的に形成されるナノ構造に着目した研究を行いました。この系は23℃以下ではナノディスクが形成され、23℃を超えるとナノディスク同士が融合し、ベシクルへと変形することがこれまでの研究でわかっていました。また50℃で作成したベシクルを30℃へ冷却するとベシクルの表面に細孔が形成されることを確認していました。今回の研究ではベシクルへの変形が起きる23℃より少しだけ高い25℃まで冷やすとベシクルが開口して大きなナノディスクへと変形すること、そしてナノディスクが互いに融合し、あるサイズに到達すると最初のベシクルよりもさらに大きなベシクルへと変形することを明らかにしました。

図2 中性子小角散乱の結果とこれを解析して得られたベシクルの変形挙動の模式図

実際に生体膜を形成しているリン脂質は多種多様で、それぞれに分子形状や表面電荷などが異なります。そのため、異種のリン脂質がベシクルの構造に与える影響について多くの研究が行われてきましたが、本研究のようにベシクルがナノディスクに変形し、再びベシクルへと変形するという複雑な形態変化が観測されたのは初めてです。このような研究を発展させれば、ベシクルで作ったモデル細胞を自由自在に融合・分裂させる、といったことも可能になるかもしれません。

本成果は2012年12月10日(現地時間)に、米国の科学雑誌Langmuirオンライン版にて公開されました。

Publication>>Kinetic Process of Formation and Reconstruction of Small Unilamellar Vesicles Consisting of Long- and Short-Chain Lipids


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