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ウイルス侵入の鍵となる硫酸化の仕組みを解明

物構研トピックス
2013年3月13日

図1. 硫酸化修飾はウイルス感染時に目印となる

九州大学大学院の角田佳充准教授は、宮崎大学農学部の水光正仁教授、榊原陽一教授らとの共同研究で、ヒトタンパク質チロシン硫酸転移酵素とターゲットタンパク質の複合体の立体構造を決定、酵素の作用メカニズムを解明しました。この酵素は、種々のタンパク質に硫酸基をつける働きをします。タンパク質につけられた硫酸基は、様々な生体防御機構に関係する一方で、ウイルスがヒト細胞に侵入する目印にも使われます。この硫酸基をつけるメカニズムが解明されたことで、抗ウイルス薬を含めた新しい医薬品の開発が期待されます。

タンパク質は様々な化学的修飾を受けることで、働きが制御されます。例えば、ヒト細胞表面に存在する受容体タンパク質に硫酸基がつけられる(硫酸化修飾)と、エイズや手足口病などの原因ウイルスがヒト細胞へ感染する際の目印になります (図1)。この硫酸化修飾を行っているのが、タンパク質チロシン硫酸転移酵素ですが、そのメカニズムは未解明でした。

そこで角田准教授らは、タンパク質チロシン硫酸転移酵素と、ターゲットタンパク質が結合している状態の構造を、フォトンファクトリーのビームラインNW12AとSPring-8を用いてX線結晶構造解析で調べました。その結果、この酵素は二量体※1を形成し、二量体の間につくられる奥深い溝の部分がターゲットとなるタンパク質のチロシン残基※2部分と結合し、硫酸基をつけていることがわかりました。

図2. ヒトタンパク質チロシン硫酸転移酵素(二量体)
  活性部位に硫酸基がつけられるタンパク質の一部 (青色)は90度折れ曲がって深い溝に結合していた。赤色は、硫酸基がつけられるチロシン部位。

またこの構造から、硫酸基をつけるタンパク質とつけないタンパク質を、タンパク質の柔軟性の違いと電荷による相互作用いて選別していることも明らかになりました。
柔らかい構造をしたターゲットタンパク質は、タンパク質チロシン硫酸転移酵素の深い溝の奥に入り込み、さらに90度折れ曲がることで活性部位の適切な位置に結合して、硫酸化修飾を受けることができます。しかし、硬い構造をしたタンパク質は、この溝に入ることができず、硫酸化修飾されません。更には、この酵素が持つ深い溝表面には、プラスの電荷が多数準備されていて、ターゲットとなるタンパク質のマイナスの電荷を持った部分を特異的に認識、選別していました。

本研究成果は、英国の学術雑誌Nature姉妹誌「Nature Communications」に2013 年 3 月12日(現地時間)掲載されました。
論文名
 "Crystal structure of human tyrosylprotein sulfotransferase-2 reveals the mechanism of protein tyrosine sulfation reaction," doi:10.1073/pnas.1218386110

 >> 宮崎大学大学プレスリリース[ PDF ]


◆用語解説

  • ※1 二量体
    同じ分子(特に高分子)が2つ結合した状態のもの。
  • ※2 チロシン残基
    タンパク質を構成しているアミノ酸の一つであるチロシンの側鎖。フェノール性水酸基を持つのが特徴

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