大阪大学蛋白質研究所の篠原彰教授、中川敦史教授らのグループは、 DNA組換えを制御することによりゲノムの安定化に関わる新しいタンパク質複合体の役割をフォトンファクトリー (PF) およびSPring-8を利用して解明しました。
生命に書かれた遺伝情報であるゲノムの実体はDNAと呼ばれる高分子であり、代謝によって生じる活性酸素や日常的に受ける放射線などにより傷(化学変化)が絶えず生じています。 DNAの傷は遺伝情報の書き換えにつながるので、生物はDNAの傷を治すためのしくみを複数備えています。そのうちのひとつであるDNA組換えは、相同染色体を認識して、DNA鎖を交換する反応です。 Rad51はこの過程を担うタンパク質で、細菌からヒトまで普遍的に存在しています。
Rad51は一本鎖のDNAに複数の分子が結合することで、らせん構造を持つフィラメントを形成し、相同なDNA鎖を探してくると考えられています。 Rad51フィラメントはDNAの傷を治すための重要な機能を担う一方、ゲノムに変化をもたらす危険性もあるため、フィラメントが形成される場所や時期は、 さまざまな補助的な役割を果たすタンパク質によって厳密に制御されています。例えば、家族性乳がんの原因タンパク質であるBrca2(Breast cancer(乳がん)の略)もそのひとつであり、 Rad51フィラメントの末端に結合してフィラメント形成を促進します。
研究グループは、DNA修復に関わることが知られていた4つのタンパク質、Psy3, Csm2, Shu1, Shu2から成る新しいタンパク質複合体PCSSが、 細胞内でRad51フィラメント形成に必要であることを証明しました。さらに、PCSS複合体のコアとなるPsy3-Csm2の2量体の立体構造を、 フォトンファクトリーのBL-17AおよびSPring-8のBL44XUを用いて調べたところ、Rad51とよく似た構造を持つことがわかりました(図1)。 この2量体は、Brca2と同様Rad51のフィラメントの末端に結合しますが、Brca2とは反対側に結合してRad51フィラメントを安定化していることが明らかになりました(図2)。 この結果から、PCSS複合体はゲノムの安定化に重要な役割を果たしていると考えられます。今回の成果は、家族性乳がんに代表されるDNA組換え異常による疾患の、新しい治療薬の開発にもつながることが期待されています。
本研究成果は英国のオンラインジャーナル「Nature Communications」に、4月9日付けで公開されました。
>>論文"A new protein complex promoting the assembly of Rad51 filaments"
大阪大学 最新研究成果リリース
>>「ゲノム安定化を担う新しいタンパク質複合体の同定に成功」