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光で溶ける結晶

物構研トピックス
2014年6月19日
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図1 光照射によって溶けた結晶の顕微鏡写真(上)および模式図(下),
コインが積みあがったような構造をしているが、光照射されるとアゾベンゼンの部分が光異性化する。その結果、コインに歪みが生じ、列もバラバラになる。

東京工業大学大学院理工学研究科の星野 学 研究員、腰原 伸也 教授、産業技術総合研究所の則包 恭央 主任研究員、阿澄 玲子グループ長、KEK物構研の足立 伸一教授らの研究グループは、有機結晶が光で融解するメカニズムを、フォトンファクトリーの単結晶X線構造解析によって明らかにしました。

通常、結晶は高温に熱せられると溶けだしますが、同じような融解が、光を当てるだけで室温でも起こる結晶があります(図1)。この技術は、結晶材料の成形・加工の上で、生産コストを大幅に削減し得るとして注目されています。

対象としたのは、長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン*1誘導体の結晶です。この結晶は、-183度で光を当てても溶けず、室温で光を当てると溶ける性質を持っています。 実験では、-183度から室温まで温度を変化させながら単結晶X線構造解析を行い、その時の構造変化を調べました。
その結果、温度上昇に伴い結晶中の長鎖の部分がダイナミックに動き、熱運動を起こしている様子を構造変化から捉えることに成功しました(図2)。結晶の時、分子はベンゼン環が作るひし形の部分(アゾベンゼン)が積み上げたコインのように整列(図1左下)しています。しかし、光照射するとアゾベンゼンが歪み(図1右下、光異性化)、整列が壊れ始めます。さらに長鎖の熱運動が加わることで、全体が一気に乱れた状態へと転移し、融解が起こると考えられます。

通常、この分子のように長鎖を持っているものは、結晶内でも長鎖が揺れ動くため、構造を定めるのが容易ではありません。放射光の高輝度な光だからこそ解明できた構造と言えます。

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図2 -183度と20度での分子構造の変化
楕円体は原子核が50%の確率で存在するエリアを示す。-183度より20度の方が長鎖(長鎖アルキル基)末端の動きが大きく、激しく運動していることが分かる。

本成果は、米国化学会の発行する「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に2014年6月11日に公開されました。

東京工業大学発表プレスリリース>>有機結晶が光で溶けるメカニズムを解明

論文情報
"Crystal Melting by Light: X-ray Crystal Structure Analysis of an Azo Crystal Showing Photoinduced Crystal‐Melt Transition" [ DOI: 10.1021/ja503652c ]


◆用語解説

  • *1 アゾベンゼン

    2つのベンゼン環がアゾ基(窒素原子同士の2重結合)を介して連結した有機分子。シス体とトランス体の2つの配座異性体が存在し、光照射によってシス体からトランス体、あるいはトランス体からシス体に異性化する。トランス体の方がシス体よりも熱的に安定であるため、シス体は熱によってもトランス体に異性化する。

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