中央大学の小松晃之教授と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の木平清人研究開発員の研究グループは、イヌ用人工血液の合成と構造解析に成功しました。これは動物医療の現場が抱える深刻な“輸血液確保”の問題を解決する画期的な発明であり、動物の輸血療法に大きな貢献をもたらすものと期待されます。
日本での犬猫飼育頭数は年々増加し、動物医療に対する需要も増え続けています。その中で輸血については動物用の血液備蓄システムが存在せず、十分な環境が整っていません。輸血療法が必要な場合には、獣医自身が自らドナー、輸血液を確保しており、長期保存できる安全な人工血液、特に”赤血球の代わりとなる人工酸素運搬体”の開発と実現が求められています。
動物用製剤の場合、酸素運搬体であるヘモグロビンは、犬や猫などの動物の血清アルブミンで覆われている必要があります。しかし、製造に必要な充分量のイヌ血清アルブミンを安定確保することは不可能です。そこで小松教授らは遺伝子組換え技術を利用して、イヌ血清アルブミンを人工的につくり出し、その立体構造を明らかにしました(図1) 。この解析には、JAXAが国際宇宙ステーションの実験で培った「高品質タンパク質結晶生成技術(Hyper-Qpro)*」と、KEKフォトンファクトリー(NW-12A)が利用されました。そして、その物性が血液由来のイヌ血清アルブミンと同一であることを明らかにしました。次に、ウシヘモグロビンを遺伝子組換えイヌ血清アルブミンで包み込んだクラスター「ヘモアクト-CTM」を合成し、その構造と酸素結合能を確かめました。本研究で明らかとなった精密な分子構造は、「ヘモアクト-CTM」の製剤化に向けて実施される試験データを説明する基盤情報として、また製剤としての安全性を担保する情報として利用されます。
今回、遺伝子組換えイヌ血清アルブミンの製造が可能となったことで、イヌ用人工酸素運搬体「ヘモアクト-CTM」が完成しました。これは、血液型がなく、長期保存が可能で安全なイヌ用人工酸素運搬体で、臨床利用可能な赤血球代替物となるものです。また、遺伝子組換えイヌ血清アルブミンはそれだけでも人工血漿増量剤として使用でき、多くの適応が期待されます。動物医療の現場が抱える深刻なドナー確保の問題を一気に解決する画期的な発明であり、動物の輸血療法に大きな貢献をもたらします。 現在、本製剤の実用化に向けた展開を共立製薬株式会社と協力して進めています。
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論文情報
雑誌名:Scientific Reports
タイトル:"Artificial Blood for Dogs" DOI:10.1038/srep36782
著者:Kana Yamada, Kyoko Yokomaku, Moeka Kureishi, Motofusa Akiyama, Kiyohito Kihira, Teruyuki Komatsu