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ミュオン科学研究系の平石 雅俊さん、岡部 博孝さんが 平成28年度 日本中間子科学会の奨励賞を受賞しました

物構研トピックス
2017年3月30日

日本中間子科学会 若手奨励賞および奨励賞は、中間子科学の発展に貢献しうる優秀な論文を発表した会員を称え、学会をより活性化するために日本中間子科学会が制定しているもので、2017年3月19日大阪大学豊中キャンパスにて行われた日本中間子科学会総会において授賞式が執り行われました。

若手奨励賞受賞の平石 雅俊氏は、物質構造科学研究所ミュオン科学研究系の研究員で、「ミュオンスピン回転・緩和法による鉄系超伝導体の研究」が評価されました。鉄系超伝導体は2008年に初めて報告されて以来、数多くの類似物質が開発され、物性分野において極めて重要な研究対象となっています。平石氏は、特に2つの典型物質についてミュオンスピン回転・緩和法 (μSR) を用いて研究を行い、その磁性・超伝導に関するいくつかの重要な性質を世界に先駆けて明らかにしました。対象論文2においては、最初に実験を行った μSR の結果が契機となって中性子・放射光の実験研究が急展開することとなり、平石氏は研究全体の進行において極めて重要な役割を担いました。さらに、ミュオン・中性子・放射光それぞれの長所を最大限に生かした本研究を通じ、共同研究者との議論によって μSR 法の有効性を広く知らしめる役割も果たしています。対象論文3においてはゼロ磁場・横磁場 μSR のデータを駆使した極めて高度な解析を成功させました。今後も磁性・超伝導研究の分野において大いに活躍が期待されます。

受賞対象の論文は以下の3本です。

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muon2017y2.jpg平石 雅俊 氏(左)と 日本中間子科学会 杉山 純 会長

奨励賞受賞の岡部 博孝氏は、物質構造科学研究所ミュオン科学研究系の特別助教で「μSR によるスピン軌道相互作用誘起モット絶縁体の超伝導化に関する研究」が評価されました。モット絶縁体は通常、電子間斥力によって生じますが、一部のイリジウム酸化物では強いスピン軌道相互作用にアシストされてモット絶縁体になると予想されています。岡部氏はこの特殊なタイプの絶縁体 Ba2IrO4を自らの手で発見し、従来の実験手法では磁気基底状態を調べることが不可能だったこの物質に対して、共同利用実験が開始されたばかりの J-PARC MUSE において μSR 実験を試みました。その結果、Ba2IrO4の電子状態を解明、イリジウムをベースとした高温超伝導体物質群の存在を示唆する明確な証拠を掴みました。ミュオンの専門家ではなかった岡部氏がミュオンの物性研究プローブとしての優秀性を証明したことは、今後の中間子科学コミュニティの発展に資するものと思われます。

受賞論文は以下の通りです。

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muon2017s.jpg岡部 博孝 氏(左)と 日本中間子科学会 杉山 純 会長