内山 隆司氏がKEK技術賞を受賞


(前列右から2番目が内山技師)

加速器研究施設・加速器第六研究系技師 内山 隆司氏の「エネルギー回収型線形加速器(ERL)のための高輝度電子銃および入射部の極高真空システムの構築」が、令和4年度KEK技術賞を受賞し、2月7日に表彰式と受賞発表会が開催されました。受賞対象として内山氏が達成した、極高真空は世界の加速器装置の装置としてトップクラスであり、cERLにおける1mAの大強度ビームの実現に極めて高い貢献を果たしています。システム完成後も安定な極高真空を10年にわたり実現していることも高く評価され、他のプロジェクトへも多く応用され波及効果が高いものとなっています。


表彰式写真


発表会の様子

 

エネルギー回収型線形加速器(ERL)のための高輝度電子銃および入射部の極高真空システムの構築
内山 隆司技師

超伝導加速空洞の特性を利用したエネルギー回収型線形加速器(ERL)は大電流の電子ビームを効率的に加速でき、電子銃より高輝度のビームを供給し続けることによってこれまでに達成されていない大強度の自由電子レーザー(FEL)の実現の可能性があります。特に極紫外(EUV)領域のFELの実現は最先端の半導体露光用の大強度光源として期待されています。 KEKではERLの原理実証用加速器としてコンパクトERL(以下cERL)を設計、建設し、2013年より運転調整を開始しました。設計当初より、cERLの電子銃には低エミッタンスビームの生成に有利なGaAs型半導体を利用した光陰極(光を照射し電子を放出する陰極)を採用し、そこからmAレベルの大電流電子ビームを長時間連続供給し続けることがマイルストーンの一つとなっていました。
大電流を可能にするために電子銃の光陰極として、光-電子変換効率(量子効率(QE))の高い光陰極が求められ、cERLでは10 %程度の高いQEが実現できる負の電子親和性を利用したGaAs型光陰極を使用しています。一般的に高いQEの光陰極は化学的に活性であることから残留ガス吸着などによる影響を受けやすいため超高真空環境が不可欠です。また、ビーム電流の増加に伴う残留ガスと電子ビームの衝突により発生するイオンが、電子銃への逆加速・衝撃によっておこる光陰極の損傷が深刻化する問題があり、入射部を含めてできる限り良い真空(10-10 Paレベルの極高真空環境)を実現し、大電流電子ビームにより発生するイオンを抑える必要がありました。入射部は電子銃と直結することから、このイオン衝撃を抑える上で極高真空環境の実現が不可欠となっています。

 


Fig.1 cERL全体図

 


Fg.2 イオン衝撃メカニズム

 

国内ではそれまでに電子銃及び入射部を大電流ビーム運転状態で極高真空レベルで運用している施設は無く、極高真空レベルを実現するためには、既存の技術を超えた新たな試みが必要と考え、素材そのものから放出されるガス(アウトガス)を抑えるための新材料(チタン、ベリリウム銅)を真空容器へ採用するなど、新たな試みが多く行われています。
内山氏は、チタン製電子銃真空容器や光陰極照射レーザー導入用ベリリウム銅真空容器などの設計製作、極高真空計の評価と選定、入射部全体の真空設計、真空容器製造時の各種試験、真空立上げ試験、cERLへのインストールなど、電子銃および入射部の真空にかかわる作業を中心的に行い、cERLの運転に不可欠となるこれらの領域の極高真空を見事に立ち上げ、光陰極として最も真空の影響を受けやすいGaAs光陰極の利用においても1 mA級の電子ビームを数時間以上供給し続けることが可能なシステムとなりました。
さらには、アウトガス評価装置の性能向上と極高真空評価装置の開発も進められており、今後、信頼性のある極高真空システムの構築が可能になると思われます。

 


Fig3. 電子銃構成

 


Fig.4 入射部構成

 

<受賞者インタビュー>

「苦労したことは?」
いままで極高真空を扱ったことがなくすべてが未知の世界でした。当時は極高真空関連の文献もすくなく手探り状態で真空試験を行っていました。ベーキングしてはリークの繰り返しで大変だったことを覚えています。電子銃および入射部を含め全体を極高真空にすることが難しかったです。

「受賞して思ったことは?」
技術開発が行われたのは今から約10年前になりますが、今回このような賞を頂けて嬉しく思います。この技術を長年維持できているのはcERLチームの支えや協力あったからと思っています。

「将来の抱負は?」
 今回、過去の資料を見直すことができ改めて勉強になりました。今後はさらにもう一桁上の極高真空技術を目指すともに、新技術の開発に取り組んでいきたいと思います。

今回の受賞にあたり、多大な支援をしていただいた山本将博准教授、真空作業協力をしていただいた三菱電機システムサービス飯島寛昭氏、サポートをしていただいたcERLチームの皆様に感謝申し上げます。

 
〜 文責: 加速器第六研究系 濁川 和幸〜