二ツ川 健太氏が日本加速器学会技術貢献賞を、吉岡 正和氏が日本加速器学会特別功労賞を受賞

KEKの二ツ川 健太氏、吉岡 正和氏が第19回 日本加速器学会 学会賞を受賞しました。8/29から開催される第20回日本加速器学会年会(日本大学理工学部船橋キャンパス)で授賞式、受賞講演が行われます。
 

二ツ川 健太氏
大電流パルスビーム陽子線形加速器のビーム負荷補償システムの研究開発

KEK加速器第二研究系/J-PARCセンター加速器ディビジョンの二ツ川 健太准教授が「大電流パルスビーム陽子線形加速器のビーム負荷補償システムの研究開発」の業績により、「2023年度日本加速器学会技術貢献賞」を受賞しました。この賞は、加速器の建設、運転、利用の高度化、製造技術の開発などに対する寄与が顕著と認められる技術的貢献に対して授与されるものです。

低電力高周波制御システムは、荷電粒子を加速するための空洞内の電界を制御する機能を持ち、高品質のビームを加速するために重要な役割を果たします。J-PARCリニアック施設のような大電流ビームの加速時には、ビーム負荷が空洞内の電界に影響を及ぼすため、ビーム負荷を補償する機能が重要となります。

既存のビーム負荷補償の方法は、ビーム条件が変化したときに適応できない課題がありました。二ツ川氏は、高周波制御に関する知識と経験を生かして、条件の変化にも適応可能なビーム負荷補償システムを開発しました。この新システムは、ビーム負荷の変動に柔軟に対応することが可能で、より安定した効率的な加速環境の実現に貢献することが期待されています。


日本加速器学会技術貢献賞を受賞した二ツ川健太氏(J-PARCリニアックトンネルにて)


ビーム負荷補償のパラメータ最適化の回数と空洞内の電界の振幅と位相の安定度の相関図。わずか2回の反復回数で最適なパラメータを得ることが可能です

 

吉岡 正和氏
加速器施設における基礎を成す土木・建築・設備設計に対する貢献

高エネルギー加速器研究機構名誉教授、岩手大学・岩手県立大学客員教授、国際経済政策調査会代表理事の吉岡 正和氏が「加速器施設における基礎を成す土木・建築・設備設計に対する貢献」の業績により、「2023年度日本加速器学会特別功労賞」を受賞しました。この賞は、加速器の建設、運転、開発、利用、普及などにおいて、これらを支えることに尽力し、加速器分野の発展に大きく貢献した長年の功績に対して授与されるものです。

TRISTANやJ-PARCなどの大規模加速器プロジェクトでは、加速器の土木・建築・設備(電気系統や機械)工事に総建設費用の約半分が費やされます。 また、それらの工事の仕様には、加速器特有の非常に高い精度が要求されます。加速器科学は限界を極める自然科学であるため、通常の建築などに必要な経験と技術の延長線上で成し遂げられる結果では十分でありません。例えば、地盤沈下などによるトンネル床変動の経年変化や振動は、わずか0.1ミリメートル程度であっても加速器ビームの品質に大きく影響します。

吉岡氏は豊富な加速器建設の経験から、重要な意味を成すこれら土木・建築・設備を「加速器土木」と称し、体系だった学問としての一分野を確立して、加速器に精通した土木などの専門家と土木などに精通した加速器研究者を育てようと尽力しました。上述した床変動の例を再び取り上げると、通常の土木・建築ではミリ単位の精度が要求されることはなく、またそのような施工を要求すれば莫大なコスト増を招く結果となります。トンネル建設(土木)、機器の架台調節(工場)、機器設置(現場)をトータルで考慮し、経費・工数の総和がミニマムになるよう最適化を図るべきだと吉岡氏は唱えています。ほんの一例ですが、このように「加速器土木」には俯瞰的に見るべきさまざまな要素が数多くあります。

吉岡氏は経験の豊富さから現在でも各地に呼ばれて数多くの講演を行っていますが、折に触れこの「加速器土木」の重要性・必要性を説いています。また氏の考えは加速器学会にも引き継がれ、2006年より学会において加速器土木のセッションが設けられ、企業からも多くの発表者が毎年参加して、活発な議論がなされています。蓄積されたこれらの経験と技術は、国内外の加速器建設に大いに役立つものと期待されています。



日本加速器学会特別功労賞を受賞した吉岡 正和氏

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