第5回アジア加速器用超伝導・低温技術スクール(ASSCA 2023)を開催しました
2024年1月28日から2月5日まで、高エネルギー加速器研究機構つくばキャンパスで「第5回アジア加速器用超伝導・低温技術スクール」を開催しました。「アジア加速器用超伝導・低温技術スクール」は、アジア・太平洋地域の国々における超伝導技術や低温工学の専門家を養成するために、若手の研究者・技術者や学生・大学院生にこれらの分野に関する講義および実習を行うことを目的としています。超伝導加速器の設計、建設および運転に必要な超伝導や低温工学に関する講義だけではなく、小グループに分かれ、加速器に関係した超伝導機器および低温工学の実習を行うことを重視しています。これにより、参加者が講義で得た知識を実際の現場で体験し、知識と体験が一体となって理解することができるようになります。
2017年度に第2回のスクールを高エネルギー加速器研究機構で、第3回を2018年度に中国・高能物理研究所で開催しました。2019年度の第4回スクールは2020年2月に韓国・高麗大学校で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大により延期となり、2023年2月に同校でようやく開催できました。
今回のスクールの受講者は40名(日本機関所属8名、外国機関所属32名)、講師は18名(日本機関所属13名、外国機関所属5名)で、運営スタッフ3名を含め、総勢61名となりました。受講者と講師の国籍は、日本以外では、インド、韓国、タイ、台湾、中国、ネパール、フランスおよびベラルーシの8カ国でした。
スクールでは、プログラムに示す通り、超伝導加速器用超伝導空洞や超伝導磁石、低温工学に関する18の講義と、高周波空洞、高温超伝導体の磁気浮上、低温工学関係の3種類の実習を行いました。今回、スクールで行った18の講義のうち、半数を主催者であるKEKの職員が担当しました。講義中も、受講者からの質問が多く、休憩時間も質疑応答が続くことも度々ありました。実習では受講者を三つのグループに分け、それぞれの実習を2日間で行って、6日間で3種類の実習を全て体験できるようにしました。グループ分けは同じ国、あるいは同じ所属機関の受講者が同じグループにならないようにし、実習を行いながら受講者の中で人的交流が行えるようにしました。
高温超伝導体の磁気浮上(超伝導コースター)の実習は、高温超伝導体のテープ片を液体窒素で冷却し、受講者が設計したマグネットベルトの上を浮上しながら滑走させるものです。マグネットベルトの形状を受講者が思い思いに変化させて、高温超伝導体がうまく滑走しては喜んでいました。高周波空洞の実習では、銅やアルミニウム、超伝導空洞の材料であるニオブの表面抵抗やQ値の測定、ニオブ製空洞と銅製空洞の高周波測定を行いました。講師から与えられた課題に受講者全員が真剣に取り組んでいました。低温工学の実習では、液体窒素を用いて空気中の酸素を液化して、液体酸素の色や磁性を確認したり、ガラス製の低温容器を用いた超流動ヘリウムの可視化(超流動ヘリウムの生成および超流動ヘリウム特有の噴水効果のデモンストレーション)を行ったりしました。教科書に記載されている事項でも、実際に自分が経験するとかなり身近なものになるようです。また、磁気浮上および低温工学の実習の各1日は要望の多かったKEKの施設見学に充てました。SuperKEKBの日光ヘリウム冷凍機とBelle II検出器、およびSTFを見学しました。その他の施設も見学したいという希望があったため、急きょ、空き時間にcERLの見学も追加して行いました。
講義や実習だけではなく、歓迎会や懇親会、遠足などの社交的な行事もプログラムに組み込み、受講生同士、あるいは受講生と講師の人的な交流を図りました。遠足では日光東照宮・中禅寺湖・華厳滝をバスで訪れました。2月の日光ということで、降雪や寒さを懸念していましたが、当日は天候も良く、比較的暖かで遠足日和でした。一部に雪が残っていましたが、雪を見たいという一部の受講者には残念な結果となりました。また、日光東照宮は観光客で混雑しており、見学時間が足りなかったようです。
今回のスクールには、アジアの国々から集まった若手の研究者・技術者や学生・大学院生が、日本からの受講者・講師を含め、各国からの受講者・講師が交流を深め、国際的な人的ネットワークを形成する良い機会となりました。また、KEKがこのような機会あるいは場所を提供できたことも、KEKの国際的な役割の一つを達成できたと思われます。このスクールの受講者が将来、各国における、あるいは国際協力による超伝導加速器の発展に寄与するものと期待しています。第6回のスクールは2025年3月に中国・北京で中国科学院・高能物理研究所が主催することが決まっています。
最後になりましたが、第5回アジア加速器用超伝導・低温技術スクールはKEK加速器科学国際育成事業(IINAS-NX)の支援によって行われました。IINAS-NX推進室をはじめ、ご支援をいただきました皆さまに感謝いたします。