ミュオン(ミュー粒子、ギリシャ文字μで表記)は
陽子加速器で造るπ(パイ)中間子の崩壊によって造られます。
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    ミュオンとは

    ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(μSR)とはスピン偏極したミュオンを物質中に注入し、ミュオンスピンの感じる内部磁場の大きさや揺らぎを実時間で捕らえることにより物質の様々な性質を明らかにする手法であり、核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(ESR)と並ぶ有力な物性研究手段です。

    我々のグループではμSRが非常に敏感な磁気プローブであることを利用して、物質の磁気的性質、第二種超伝導体の磁束状態等の研究を展開しています。磁気プローブとしてのμSRの特徴は、あらゆる試料に直接ミュオンをイオン注入して観測することが可能なこと、1ナノ秒から数十ミリ秒といった丁度中性子散乱とNMRの間に位置する時間領域のスピン揺らぎに敏感であること、更に0.01μBといった小さな磁気モーメントを容易に検出できることなどがあげられます。また、中性子と相補的に、空間的に乱れた磁気的状態の研究に対してもっとも威力を発揮します。これらの性質の応用として、例えば第二種超伝導体の磁束状態では磁束のまわりの磁場分布を直接詳細に観察でき、そこから超伝導の性質に関る様々な物理量を引きだすことができます。

    一方、ミュオン自身が陽子あるいは水素原子の軽い同位体であることに注目し、不純物としての水素同位体が重要な役割を担っている系においてミュオンあるいはミュオニウム(水素原子の陽子をミュオンで置き換えた原子)の電子構造や動的性質(拡散等)を明らかにする研究を行っています。不純物としての水素同位体は固体結晶中で点欠陥を形成しますが、質量が軽いために動きやすく、その動的性質(拡散等)は大変面白い研究対象です。特にミュオンは陽子の更に9分の1という軽い質量を持つため、量子力学的効果が大きく効いてくることが予想されます。そこで我々はミュオンを様々な結晶固体中に注入し、μSRの手法を用いて量子拡散(トンネル効果に支配される拡散)、半導体中のミュオン/ミュオニウム(水素原子の陽子をミュオンで置き換えた原子)の準安定性等に代表される「欠陥中心のダイナミクス」を調べています。

    これらの仕事は主に物質構造科学研究所・ミュオン科学研究施設(高エネルギー加速機研究機構)にて行われていますが、更にTRIUMF(カナダ、バンクーバー)や、英国にある理研RALミュオン施設(日英協力により1995年4月に竣工)においてもそれぞれ当地の研究者との共同研究として進められています。 [Wikipedia「ミュオンスピン回転」2006年8月6日のkadonoによる投稿は、このWebページの作成者によるものです。]

  • ミュオンスピン
    回転/緩和/共鳴
    (μSR)

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    ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(μSR)

    (a) ミュオンは高いエネルギーを持ったイオンビームとして加速器施設でつくられ、試料にそのまま注入されて止まります。このときミュオンは進行方向にその磁気モーメントが完全にそろった状態になっています。ビームのエネルギーは後のμSRの測定量とは直接関係ありませんが、このエネルギーによって試料のどのくらい奥深くまでミュオンが到達して止まるかが決まります。典型的によく使われるエネルギーとしては4MeV(4百万電子ボルト)で、この場合密度1g/cm3の試料中では1mmぐらいの深さまで達したところで止まります。ビームラインによってはもっと高いエネルギー(~数十MeV)のビームが供される場合がありますが、その時には試料の前に減速材(degrader)を置いてあらかじめビームエネルギーを調整します。

    (b) 試料中に止まったミュオンの磁気モーメントはその瞬間からその場所での磁場を感じて歳差運動page5(precession; 回転)を始めます。これはもちろんミュオンの磁気モーメントが自転=スピンを伴っているためで、重力場中のコマの歳差運動と同じ原理によります。磁気モーメントとスピンは常に同一視されるので通常はスピン回転と呼ばれます。試料内部での磁場の原因としては核磁気モーメントと電子の磁気モーメントがあり、外部磁場がある場合にはそれら全ての磁場のベクトル和が歳差運動の回転軸方向と周期をきめることになります。核磁気モーメントからの内部磁場は一般に数G程度であるのに対し、電子からのそれはその100~1000倍と大きいために容易に区別することができます。これらの内部磁場の向きと大きさがミュオンスピン回転の周波数や減衰に反映されるため、ミュオンスピンの運動を正確に知ることにより試料の磁気的な性質を明らかにすることができます。

    (c) それではミュオンスピンの運動はどのように観測するのでしょうか? 実はミュオンは2.2マイクロ秒という平均寿命で陽電子とニュートリノに崩壊する際に、陽電子(e+)をスピンの方向に放出しやすいという大変便利な性質を持っています。しかもこの陽電子は非常に高いエネルギー(数十MeV)を持っているため、試料容器の外に配置されたシンチレーション検出器で容易に検出することができます。従って、たくさんのミュオンを試料に注入し、いろいろな時刻で崩壊するミュオンからの陽電子の空間分布を時々刻々と追いかけることによりミュオンスピンの運動を知ることができるのです。