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Belle IIグループの谷川 輝さんと理論センターの森 崇人さんが日本物理学会学生優秀発表賞を受賞

2021年の日本物理学会秋季大会にて、Belle IIグループの谷川 輝さん(東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程3年)と理論センターの森 崇人さん(総合研究大学院大学 素粒子原子核専攻 5年一貫制博士課程4年(※))が日本物理学会学生優秀発表賞を受賞しました。本賞は日本物理学会年次大会・秋季大会にて優れた発表を行った学生に授与されます。

谷川さんはBelle II実験におけるB0→K_S _0K_S _0K_S _0過程の時間依存CP非対称度の研究」というタイトルで講演しました。谷川さんも参加するBelle II実験では、KEKつくばキャンパスにある周長3 kmのSuperKEKB加速器で電子と陽電子(電子の反粒子)を衝突させ、大量のB中間子(注1)と反B中間子のペアを生成しその崩壊を調べる事で、未解明な宇宙の謎を解く鍵となる新しい物理現象を探しています。その一つに、粒子と反粒子の違いの探索があります。粒子とそのペアとなる反粒子は、電荷が反対である以外、質量や寿命などの性質は同じです。ですが、時刻ごとに観察すると振る舞いに違いが見えてくる場合があります。この違いが標準理論で考えられる値と異なる場合、新しい物理現象の発見に繋がることが期待できます。そこで、谷川さんはB0→KS0 KS0 KS0(注1)というB0中間子(注1)の崩壊過程に注目しました。B0中間子とその反粒子であるB0中間子のKSKSKSへの崩壊は、全体の時間を通してみると同じ確率で生じますが、一瞬一瞬では壊れる確率が異なります。標準理論からの予想と異なる現象が生じている場合、この差異が予想よりも大きく、あるいは小さくなる可能性があります。

Belle II実験で測定したデータには様々な粒子の崩壊反応が含まれるため、B0中間子が生成されない反応も含まれます。そこで谷川さんはまず、膨大な量のデータの中からB0→KS0 KS0 KS0反応と思われるデータを選び出す手法を、シミュレーションを用いて開発しました。しかし、選び出したデータの中にはまだ本物と酷似した別の反応も含まれています。谷川さんはさらに、これらのデータ中の反応が本物である確率を計算する手法を開発しました。この成果により、今後B0→KS0 KS0 KS0反応とB0→KS0 KS0 KS0反応の瞬間ごとの差を調べる研究が進展すると期待されます。

森さんは「相互作用する場の理論におけるエンタングルメントエントロピー」というタイトルで講演しました。この世界は、私達にはマクロ(巨視的)な古典力学に従っているように見えていますが、実際はミクロ(微視的)な量子力学に従っています。量子的な世界では、ある場所の観測と遠く離れたところの観測が関係しあうことがあります。これをエンタングルメント(量子もつれ)と呼び、どの程度量子力学的に関連し合っているかを表す値をエンタングルメントエントロピーと呼びます。

量子的な世界において、エンタングルメントエントロピーは、物質を記述するための理論のうち、質量など基準となる長さや重さがないような場合や、物質間の相互作用がほとんどない場合といった特殊な理論については研究されてきました。一方で、相互作用がある場合については技術的に計算が難しく、これまで一般的な研究はされてきませんでした。森さん達は、特徴的な長さや重さが存在し、かつ相互作用する場合のエンタングルメントエントロピーに対する主要な寄与の計算式を確立しました。さらに、この寄与が観測量とどのように関係しているかを明らかにしました。今回の結果から、将来的には粒子の衝突実験等の結果からエンタングルメントエントロピーを求めることにより、高エネルギー実験を情報論的な側面から捉え直すことができると期待されます。

お二人にお話を聞きました。
-受賞した感想を聞かせてください。

●谷川さん「研究が評価されて、今回このような賞を受賞できて非常にありがたいです。日頃から研究を見て下さっている先生方にも感謝します。粒子と反粒子の違いを見るのが目標ですが、まだ道半ばなので、今後の研究の励みになりました。」

◆森さん「日本物理学会学生優秀発表賞は私が大学院に入学した後に設立され、いつか取りたいと思っていたので受賞できて嬉しいです。本研究は成果が出るまで1年ほどかかり、苦労もありましたがこのような賞として評価されて嬉しく思います。指導教官の磯先生、共同研究者の酒井さんのお二人には多くのご指導やご助言をいただき、本当に感謝しています。」

-今後の目標を教えてください。

●谷川さん「粒子と反粒子の違いに興味があります。宇宙誕生直後には物質と反物質が同程度存在していたのに、なぜ現在では物質しか存在していないのか、その解明に貢献できる研究を行いたいです。また、修士課程の頃からBelle II実験に携わってきましたが、今後は別の実験にも参加して、周りの学生や同僚に良い影響を与えられる研究者になりたいです。」

◆森さん「ミクロな世界での重力の理論を定式化することが一番の目標です。ミクロな相関という視点から、量子重力理論やブラックホールについても理解したいです。」

(※)総合研究大学院大学は5年一貫制博士課程制度を採用しているため、総研大での博士課程4年は通常の大学院における博士課程2年となります。

 

用語解説

注1. 中間子
クォークと反クォーク(クォークの反粒子)が結合した粒子。中間子には様々な組み合わせがあり、B中間子は反ボトムクォークとアップまたはダウンクォークが結び付いた粒子です。この他に、例えば第2世代のクォークであるストレンジクォークを含むK中間子などがあります。B0中間子は電荷を持たないB中間子のことです。KS0中間子は電荷を持たず、かつ寿命が短いK中間子です。

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