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中性K中間子の稀な崩壊で世界最高感度を10倍更新  KOTO実験グループがICHEP2018国際会議で発表

東海村のJ-PARCハドロン実験施設で中性K中間子(KL)の稀な崩壊を探索するKOTO実験の研究グループが、2015年に収集したデータの解析からこれまでで最も厳しい上限を得て、その速報値を7月初旬に韓国のソウルで開かれた高エネルギー物理学国際会議「ICHEP2018」で発表しました。速報値3.0×10-9(3億分の一)は、これまでの上限値2.6×10-8(4千万分の一)より10倍小さく、世界最高感度を大きく更新するものとなります。

素粒子物理学の標準理論が予想するこの崩壊の分岐比は(3.0±0.3)×10-11(3百億分の一)で、今回の速報値に比べると二桁小さいものの、標準理論を超える新しい物理を探索できる段階にいよいよ入ったと言えます。

KOTO実験は、J-PARCの大強度陽子加速器(メインリング)からハドロン実験施設に取り出された陽子ビームを、金の標的に衝突させ、寿命が長い中性のK中間子(KL)を生成し、その粒子が非常に稀な割合で、KL→π0ννをというパターンに崩壊する現象を見つける実験です。ニュートリノ(ν)は直接検出できないため、中性のπ中間子(π0)が崩壊して生ずる二つのγ線を、直径約4メートル、長さ約6メートルの円筒形の検出器の後方に設置したカロリーメータ(CsI)で捉えて、崩壊を同定します。他の崩壊モードや元々のビームに含まれるバックグラウンドからより分けて、この崩壊だけを検出するのは非常に困難で、2013年にいったん完成したKOTO実験の測定器に対してもこれまで多くの改良が施されてきました。

これまでの実験の上限値は、KEKつくばキャンパスに日本で初めての大型加速器として建設された12GeV陽子シンクロトロン(KEK-PS)で2004-2005年に行われたE391a実験で得られた成果です。KOTO実験はE391a実験で使われた検出器を東海に移設し、検出器やデータ収集系への様々なアップグレードを行い、2013年から実験を開始しました。

ICHEP2018で成果を発表した素粒子原子核研究所の塩見公志助教によると、今回の実験は2015年の3ヶ月間のビームタイムで得られたデータを解析したもので、22×1018個の陽子が金の標的に衝突して生じたKLのうち、バックグラウンドを除いた7.7×108個のKLが崩壊した情報を精査し、稀崩壊モードの事象が一つもないことを確認したということです。

塩見助教は「これはE391a実験と同等の結果を得た2013年と比較すると、世界最高感度を10倍更新しています。観測装置は、円筒形のガンマ線検出器の増強(2016年)、カロリーメータの改良(2018年)により、バックグラウンドをさらに減らす努力を進めており、あと二桁、標準理論のレベルまで感度を上げる計画です。そこで標準理論の予測との差がはっきりすれば、新しい物理の証拠が得られることになり、何も見つからなければ様々な新しい物理のモデルが否定されるなど、意義のある結果が出てくるはずで、これからが大変楽しみです」と話しています。

研究グループでは今回の結果をもとに、論文の投稿を予定しています。

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