ニュース

KEK特別企画講演会「新生SuperKEKB加速器、いよいよ衝突実験」を、文部科学省ラウンジで開催 約30人が出席

KEKが主催する特別企画講演会「新生SuperKEKB加速器、いよいよ衝突実験〜新しい物理学を求めて」が1月30日、SuperKEKB加速器とBelle II 測定器に関わる模型などを展示中の文部科学省で開かれ、関係者を含めて約30人が参加しました。旧庁舎1階のラウンジで開かれた講演会では冒頭、山内正則機構長が挨拶した後、SuperKEKB加速器の責任者でもあるKEK加速器研究施設の赤井和憲教授、電子・陽電子の衝突点に位置するBelle II 測定器の研究メンバーであるKEK素粒子原子核研究所の谷口七重助教の二人が約40分ずつ講演を行い、会場からの質疑に答えました。

山内機構長 「加速器は科学技術全盛の時代をもたらした立役者」

自らもBelle実験の研究に携わってきた山内機構長は、研究の背景にある前提として、「分子、原子よりも小さな素粒子クォークのことを知ることで、宇宙の歴史を理解しようとしています」とまとめた上で、①原子は宇宙全体の5%程度しかなく、残りは暗黒物質(ダークマター)、暗黒エネルギーという未知のもので満たされている、②宇宙誕生のビックバンから、物質と同じ量が生成したはずの反物質が宇宙のどこを探しても見つからない、という二つの大きな謎を掲げ、「こうした基本的なことを知ることが研究の焦点であり、SuperKEKB加速器を使った研究が、理解を深めると期待しています」と述べました。

また、加速器が1930年代にローレンスによって発明されてから、素粒子の研究に加え、物質の構造や機能の解明、さらに医療分野にも応用されるようになった現状に触れ、「加速器は科学技術全盛の時代をもたらした立役者と言えます。さらに、これからも人類の発展を後押しするものと思います」と力強く語りました。

赤井教授 ナノビーム方式採用で「ルミノシティの世界記録の更新を目指す」

赤井教授は「未踏のルミノシティを切り開くSuperKEKB加速器」と題して講演しました。赤井教授は、SuperKEKBの前身であるKEKB加速器が、物質と反物質の性質の違いを予言した小林・益川理論の正しさを立証し、両氏の2008年ノーベル物理学賞の受賞を後押しした、と説明した上で、「SuperKEKBが加速器の性能を意味するルミノシティ(衝突頻度)で、世界最高記録の更新を目指します」と表明しました。

また、赤井教授は「衝突でできたB中間子対のうち、注目する崩壊反応が起きるのは百万回に一回あるかないか。つまり、電子と陽電子がたくさん衝突し、より多くのB中間子、反B中間子の反応を生み出す必要があります。そのため、衝突点のビームを絞り込む新しい工夫を一新するとともに、ビーム電流を大きくし、40倍のルミノシティを生み出すことができるように大改造しました」と語りました。衝突点でビームを絞り込むのは難しく、絞り込んだ前後でビームが膨らんでしまい不安定化する「砂時計効果」が課題でしたが、両ビームを細く絞り込んだ上に大きな角度をつけて衝突させる「ナノビーム方式」を採用したこと、また、陽電子ビームを安定化させるためビームパイプにアンテチェンバーを採用し、偏向電磁石100台を更新するなどビームラインを一新し、課題を克服したことについても報告しました。

CERN(欧州合同原子核研究機関)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)のように、高いエネルギー状態を作り、新しい粒子を直接見つけることを「エネルギーフロンティア」と呼びますが、SuperKEKB加速器のように、トンネル効果を利用して高いエネルギー状態を間接的に見つけようとする実験を「ルミノシティーフロンティア」と呼ぶことについても説明し、「両者は競争的かつ相補的です」と赤井教授。さらに、「KEKB加速器の時代に見つかった兆候から、新しい物理の証拠を得るためには、50倍のオーダーのB中間子が必要です。KEKBなら数百年かかるところを、SuperKEKB加速器の40倍のルミノシティを生かし、10年程度でやろうとしています」と決意を語りました。

谷口助教 「研究者自らが設計して、組み立てを行なった」Belle II 測定器

「Belle II 実験で期待される物理」と題して講演した谷口助教は、Belle II 実験のテーマの一つとなっているCP対称性の非保存について、「小林・益川理論が予測し、KEKB加速器とBelle実験が立証した分だけでは、宇宙が物質だけであることを証明するには不十分です。見つかっていない粒子の存在や、クォークが本当に6種類だけなのか、まだ多くの疑問があります」と主張しました。

その上で、現在見つかっている17種類の素粒子のそれぞれにペアになる重い素粒子が存在すると考える「超対称性モデル」と、2012年にLHCで見つかったヒッグス粒子が複数存在する「2ヒッグス二重項モデル」を紹介。「B中間子のいろいろな崩壊パターンを多角的に調べれば、大きな理論の体系が浮かび上がるかも知れません。とくに超対称性モデルにはダークマターの候補と言われている粒子があり、多くの物理学者に人気があります」と説明しました。

また、アップグレードしたBelle II 測定器について、現場の写真を多数示しながら説明しました。測定器の中心を包むような半径約1.1メートル、長さ約2.3メートルの円筒形のCDC(中央飛跡検出器)と呼ばれる検出器の写真を示し、「CDC内部には5万6576本のワイヤーが張られています。これらは1年以上かけ、研究者と業者の手作業で一本ずつ張ったもので、気の遠くなるような作業でした」などと自ら携わった実感を込めて紹介。さらに、「ここに写っているのはみなさん研究者、技術者ですが、測定器の建設中ということもあり、作業着とヘルメット姿です。これらの検出器は研究者自らが設計して組み立てています」と紹介しました。

Belle II 実験には、25カ国・地域から800人近い研究者が参加していることや、海外から多くの要人が視察に訪れるなど大きな関心が寄せられていることに触れ、「KEKB/Belle実験の終了から8年が経ち、待ちに待った実験開始です。実験開始から数年でいくつかの決定的な結果が得られると期待するとともに、思ってもみないところから予想外の結果が出ることも楽しみです。どんな小さな手がかりも逃さないように注意深く探っていきたいです」と結びました。

会場から質問 「初衝突はいつ起きるのか」「どんな成果が期待されるのか」

会場からは「測定器の性能はどのように上がったのか」「中心ビームパイプが細くなったことも性能向上につながったのか」「理研の仁科加速器センターの取り組みとの連携は」「初衝突はいつ起きるのか」「どのような成果が期待できるのか」「超対称性モデルと2ヒッグス二重項モデルのどちらが真実に近いのか」「LHCでは超対称性粒子が未発見だが、見落としがあるのか。SuperKEKB加速器なら見つかるのか」など、多くの質問が寄せられました。

「初衝突はいつ起きるのか」という質問に対して、赤井教授は「3月からビーム調整を開始し、段階的にビームの絞り込みと調整を繰り返していきます。初衝突の時期を予測するのは難しいですが、1ヶ月、2ヶ月ぐらいの調整で最初のイベントがあることを期待しています」と見通しを明らかにしました。

また、「超対称性モデルと2ヒッグス二重項モデルのどちらが真実に近いのか」という質問に、山内機構長は「こうしたモデルは人の数だけあり、どれが出てくるのかを予測するのはなかなか困難です。SuperKEKB加速器とBelle II 測定器で行うのは、証拠を一つ一つ積み重ね、何が出てくるかを見極めるという実験です。超対称性モデルが出てくれば、視野が広がるので、個人的には希望しています」と話しました。


当日のプログラム

リンク

関連リンク

ページの先頭へ