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次世代加速器用タングステン、半導体製造工程への応用に道筋 KEK牧村俊助技師、テクノロジー・ショーケースでベスト産業実用化賞

1月26日、つくば国際会議場で開催された SATテクノロジー・ショーケース2023において、KEK 素粒子原子核研究所、J-PARCセンター ハドロンセクションの牧村俊助 技師の出展した「最先端加速器技術で産業を革新する-超耐熱高靭性・高電気抵抗率タングステン合金」がベスト産業実用化賞を受賞しました。

J-PARCでは加速器で加速した陽子を標的に衝突させて二次粒子を作り、その二次粒子を用いて素粒子物理や物質・生命に関する研究を行っています。より効率よく実験を行うために、標的には密度の高い材料が望まれており、密度の高いタングステンは陽子加速器の標的材料として期待されています。

一方で、通常のタングステンは、たくさんの陽子と衝突すると標的部分が高温になることによって脆くなり、さらに陽子の衝突によっても脆くなってしまう課題を持っています。牧村さんは、J-PARC COMET実験のための標的の性能向上を目指し、結晶粒を細かくし、その結晶粒の境界を強化することによって、脆くなる課題を解決した超耐熱高靭性タングステンの開発を進めており、標的の性能向上を目指しています。COMET実験は、素粒子の一つミューオンを使って宇宙の歴史の中で実際に起ったことの痕跡をたどろうとする実験です。

超耐熱高靭性タングステンは加速器材料だけではなく、半導体分野など幅広い産業においてもその利用が期待できます。例えば、半導体製造の蒸着工程において、加熱によって金属を蒸発させ、薄い膜としてシリコンウェハーに付着させる超高温ヒーターへの応用や、露光装置に用いられるランプ電極の材料として開発を進めています。

超高温ヒーターへタングステンを使用する場合、従来はフィラメント(細い針金状)型が一般的ですが、均一に加熱が可能で、丈夫な板型ヒーターの採用が期待されています。このとき加熱に必要な電流を小さくするために、異なる金属を混ぜることによる高電気抵抗率化も実現しました。

牧村さんはSATテクノロジー・ショーケース2020においても超耐熱高靭性タングステンのポスター発表でベスト新分野開拓賞を受賞していますが、今回は、タングステンの高電気抵抗率化、分野融合による最先端材料開発の進捗を発表しました。金属技研、サンリック、ユメックスといったメーカーとの産学連携によって開発環境の整備・産業応用を進めてきました。

それに加えて、最先端評価技術、計算機科学による研究体制の強化のために、研究大学コンソーシアムMIRAI-DX(分子科学研究所、九州工業大学)、応用科学研究所、愛媛大学、東京大学、日本原子力研究開発機構、核融合科学研究所などの国内研究機関や欧州合同原子核研究所(CERN)、米国フェルミ国立加速器研究所などの海外の研究機関とも共同研究を進めている点が高く評価され、今回の受賞につながりました。

超耐熱高靭性タングステンは、医療用のX線発生装置用回転陽極や、核融合炉のダイバーター(炉内で最も熱負荷を受ける機器)の材料としても有望だといいます。牧村さんは「これらの実用化に向けてさらに産学連携で開発を進めていく」と話しました。

本研究は「JSPS科研費JP19H01913, JP21H04868」, 「経済産業省 戦略的基盤技術高度化支援事業 JPJ005698 2808110216」, 「KEK共同研究(金属技研)(2016年~)」, 「日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)」, 「核融合科学研究所共同研究NIFS17KEMF101」, 「愛媛大学PRIUS共同研究」, 「東北大学金属材料研究所共同利用202112-IRKMA-0013」, 「KEK寄付金事業(H30)」「東京大学重照射研究設備共同利用」「CROSSユーザー実験準備室のXRDの利用」の助成・支援を受けています。

つくばサイエンス・アカデミーが主催するSATテクノロジー・ショーケースは、“異分野交流による知の触発”をスローガンに毎年開催されています。今回は「加速器だから見える世界」をテーマに特別シンポジウムが行われました。

 

第1部の講演では足立伸一・KEK理事が座長を務め、花垣和則・KEK素粒子原子核研究所副所長、道園真一郎・KEK加速器研究施設 応用超伝導加速器イノベーションセンター長、広島大学大学院先進理工系科学研究科の薮田ひかる教授、名古屋大学シンクロトロン光研究センターの梅名泰史准教授が登壇しました。第2部のパネル討論では、勝田敏彦・KEK広報室長がモデレーターとなり、「SDGs カーボンニュートラルに関して加速器科学が貢献できること」をテーマに討論を行いました。

 

特別シンポジウムや授賞式の様子は2月28日まで視聴することができます。

※動画の概要欄に各リンクが記載されています。

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