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国籍を超えて活気に満ちたスクールに ~第6回東南アジア素粒子物理学スクール(PPSSEA)開催~
2023年4月4日
東南アジア素粒子物理学スクール(PPSSEA: Particle Physics School in South-East Asia)は、東南アジア諸国の素粒子物理学・加速器科学の発展と若手研究者育成および科学技術の基盤形成を目的に、KEKが中心となり2011年より2年に1度開催しています。6回目となる今回は、タイ国立大学チュラロンコン大学にて3月12日(日)~18日(土)に開催されました。本来は2020年に開催する予定でしたが、コロナ感染症拡大の影響により、3年遅れての開催となりました。
KEKから5人の研究者を講師に、東南アジアの5カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピン)から22名の大学院生が参加し、1週間にわたり「理論的素粒子物理学」「実験的素粒子物理学」「加速器」「測定器技術」の講義および「粒子検出器に関する実習」が行われました。スクール期間中、参加者は講義と実習を受けるとともに5つのグループに分かれて、最終日の発表に向けて国籍や文化の違いを超えて活発に交流し、発表資料の準備を行っていました。
今回のスクールには、第2回スクール卒業生のクラパ・チャイウォンコット氏(現・Mahidol University講師)もワイヤーチェンバーの実習のサポートとして加わりました。彼女は第2回の本スクールに参加したことでさらに素粒子実験に携わりたい考え、Belle IIコラボレーターとしてCDC(中央飛跡検出器)グループに加わり研究を進め、『Inner chamber of the Belle II Central Drift Chamber』という題目で修士論文の執筆もしました。その後、日本に2年間滞在し、九州大学にて博士号を取得しました。
最終日は「素粒子実験」「CP対称性の破れ」「加速器」「測定器」そして実習で行った「ワイヤーチェンバー」をテーマに、グループごとに発表が行われました。20分の持ち時間に、事前に与えられた課題に対して彼らなりの考察をまとめて発表。発表の方法にも工夫が見られ、綿密に準備した様子が感じ取れました。どのグループにもたくさんの質問が寄せられ、充実した内容となりました。
現地組織委員会のナルモン・スォンジャンディー氏(チュラロンコン大学)は、「どのグループも国や所属機関の垣根を越えて、お互いに協力し合い非常に良い関係を築いていた。休憩中もとてもエネルギッシュに議論をし、意見交換をしていたのが印象的だった」とスクールを振り返りました。参加した学生は、「ワイヤーチェンバーを使った実習は初めての経験で面白かった」「素粒子理論の講義で自分の視野が広がった」「とてもバランスのよいプログラム構成で、素粒子物理学のさまざまな側面を学ぶことができた」「どの講義も非常に面白く、また参加者同士の友情を築けたことが嬉しかった」などとコメントしました。
本スクールの校長を務めた宇野彰二教授は「まだコロナの影響で参加者が少な目であったことは残念であったが、これまでのスクールと同様に、参加した学生さんの学びたいという熱気に感心させられた。東南アジア地域でのKEKの果たす役割が重要であることもあらためて感じられた1週間であった。」とスクール全体を振り返りました。
先に紹介したクラパ氏のように、スクールに参加したことで素粒子物理学の世界に飛び込む東南アジア諸国の学生がさらに増えることを期待しています。次回は2年後に開催する予定です。