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DIRAC & Rucioワークショップ開催~素粒子実験のためのよりよい計算環境と運用に向けて~

昨今の素粒子原子核実験や宇宙線観測においては未知の物理現象の発見を目指して、これまでになく検出器が巨大化、細密化、高速化し、これにより取り扱うべきデータ量も大幅に増え続けています。今や実験を成功させるためには、データを滞りなく処理し、解析結果を出し続ける計算環境の構築と効率のよい運用が必須となっています。そのため、KEKで行われているBelle II実験や欧州合同原子核研究機関 (CERN) で行われている ATLAS や LHCb (Large Hadron Collider beauty) 実験、さらには国際チェレンコフ宇宙ガンマ線天文台 The Cherenkov Telescope Array Observatory (CTAO) など幅広い科学分野で分散計算環境を利用しています。

ここで分散計算環境とは、世界中に点在するそれぞれの計算機サイトで運用されている計算資源を高速ネットワーク回線で繋ぎ、あたかも地球規模の巨大なコンピュータとして利用する仕組みを指します。「グリッド・コンピューティング」もその一つです。しかし各計算機サイトで運用されているシステムは小規模クラスタから大規模バッチシステム、クラウド・コンピューティング、HPC (High Performance Computer) と多種多様です。これら異なる計算資源を相互運用できるようにするため、LHCbを中心にDIRACと呼ばれるインターウェアが開発され、ジョブならびにデータの双方を管理できるようになりました。また、多数の計算機サイトに分散したデータを統一的に管理、利用する Rucioと呼ばれる分散データ管理ツールもATLASを中心に開発されました。Belle II実験ではこれら双方を基本ツールとして採用しています。

10月16日から20日にかけ、このDIRACとRucioの合同ワークショップをKEKで開催し、アメリカ合衆国、スイス、フランス、イギリス、イタリア、ロシア、メキシコ、中国、日本から合計40名ほどの専門家が集まりました。これまではDIRAC、Rucioそれぞれ単独に開催されていたワークショップを合同で開催するのは初の試みになります。それぞれが培ってきた技術や経験、また問題点を共有することで、よりよい分散計算環境を実現することが狙いです。さまざまな科学分野において分散計算環境ならびに分散データ管理の需要は今後ますます大きくなることが期待されています。DIRACやRucioが素粒子原子核実験の域を超え、より広い科学分野で応用されるきっかけとなるようなワークショップとなりました。

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