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おとなのサイエンスカフェ第3夜、「一夜限定!素粒子アラカルト」開催

9月29日(金)、KEK素粒子原子核研究所(素核研)が主催する、おとなのサイエンスカフェ第3夜「一夜限定!素粒子アラカルト」つくばセンタービル co-enで開催しました。

素核研では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙までの幅広い分野に対して、理論および実験の両側面から総合的研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。

 

今回のサイエンスカフェでは、花垣 和則(はながき かずのり)素核研副所長が話し手となりました。花垣副所長は世界最高エネルギーでの素粒子実験を主導してきた研究者です。参加者への事前アンケートを基にして参加者との対話を積極的に図りながら、素粒子の『いろは』を前菜に、暗黒物質と宇宙との関わりなど素粒子にまつわる話題を提供しました。

まず、素粒子の「いろは」として、素粒子物理学というのはこの世が何からできているのか、その粒子の間にはどのような力が働くのか、それを解明する物理学であると紹介しました。
粒子の間に働く4つの力には「弱い力」「強い力」「電磁気力」「重力」があります。これらの力は突き詰めれば一つの力として統一できると考えられる、と花垣副所長は述べ、その理由を説明しました。その昔は電気と磁石の力は別のものとして考えられていましたが、現在は「電磁気力」として統一され、一つの式で説明することができます。さらに、2012年にスイス・ジュネーヴ近郊にあるCERNのLHC実験におけるヒッグス粒子発見により、電磁気の力と弱い力も統一できることが実証されました。これを電弱統一理論の完成と物理学者は呼んでいます。次の目標は「強い力」と電弱統一理論を合わせた大統一理論で、その実証に重要な役割を果たすと考えられている「超対称性粒子」の探索を進めていると花垣副所長は説明しました。

KEKのキャッチコピーでもある「加速器だから見える世界」-加速器で見えないものを見る仕組みについて説明してから、今日のメインである「暗黒物質」の話題に進みます。

暗黒物質とは、正体不明の重力源で、「光らない」「見えない」「電磁相互作用しない」物質と考えられています。現在の宇宙のように、星がたくさん分布しているところと、全くないところがあるのも、暗黒物質の存在が大きく関係していると花垣副所長は説明しました。全宇宙を構成する物質やエネルギーのうち、分かっていることはたった5%しかなく、それ以外は暗黒物質が27%、残りが暗黒エネルギーだと言われています。この世界が何でできているのかを解明するためには、暗黒物質を探ることがとても重要です。

クォークや電子などの素粒子は電磁相互作用するので暗黒物質とは異なります。ニュートリノは電磁相互作用をしないため、一見、暗黒物質の候補とも考えられますが、質量が軽すぎるため宇宙空間に一様に分布してしまいます。そうすると、暗黒物質がいる証拠となる宇宙の大規模構造を説明することはできません。

では、どうやって暗黒物質を探したらよいのでしょうか。暗黒物質は相互作用しないため、検出器を素通りしてしまい直接検知することはできません。加速器で陽子と陽子を衝突させると、新しい粒子が必ずペアとなって生み出されます。ペアであるはずの粒子にエネルギーの違いがあれば、暗黒物質である可能性が高まります。また、暗黒物質は重い物質である可能性があり、重い粒子を探すためには陽子を衝突させるエネルギーも高くする必要があります。そのような高エネルギー実験を可能とするのが、花垣副所長が携わるCERNのLHC/ATLAS実験です。周長27kmのLHC加速器で陽子と陽子を高いエネルギーで衝突させ、重たい粒子を生み出します。暗黒物質の証拠となるアンバランスな事象を見つけるためには超精密な検出器も必要です。花垣副所長は迫力のあるATLAS検出器を写真と動画を見せながら紹介しました。

 

最後は素粒子物理と宇宙との関わりについて「ウロボロスの蛇」の図を使ってお話しました。蛇がしっぽをくわえている図は、一番大きな宇宙と一番小さい素粒子がつながっていることを意味しています。このことからも宇宙を理解するためには素粒子を調べることが重要であることがわかります。

138億年前に宇宙が誕生した頃はまだ原子が存在しておらず、原子核と電子がばらばらの状態(これをプラズマ状態といいます)でした。これでは光がまっすぐに進めず霧の中のように先を見通すことができません。宇宙誕生から40万年後に電子と原子核がくっつき、原子ができたことで電荷がゼロとなり、光はまっすぐ進むことが出来るようになりました。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいると説明しました。
ここで素粒子物理学との関わりとして重要なのが、質量の起源です。電子の質量と原子核の外側を回る電子の軌道半径は反比例することが分かっています。例えば、電子の質量が半分になった場合、軌道半径は2倍になります。電子の質量がなくなると、軌道半径は無限大になり原子核を捉えておけず原子を作ることはできません。「宇宙の晴れ上がり」につながる、原子を作るためには電子が質量を持たないといけません。電子に質量をもたらしたヒッグス粒子のおかげでこの宇宙が存在しています。このように宇宙の歴史を理解するためには素粒子物理学の理解が必要であることを参加者に伝えて、花垣副所長はサイエンスカフェを締めくくりました。

参加者からは

「暗黒エネルギーの話で体積が増えても密度は変わらないことが印象的だった」
「宇宙は何かという事にますます興味が湧きました」
「宇宙が広がると暗黒エネルギーが増えることをもっと知りたい」

などたくさんの感想をいただきました。

ご参加いただきました皆さま、ありがとうございました。

 

おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでいただくことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。
次回、第5夜の予告です。

おとなのサイエンスカフェ第5夜「宇宙をつくる素粒子のパズル」

開催日:11月24日(金)18:30~
場 所:つくばセンタービル co-en (つくば駅徒歩3分)

宇宙はどうやって始まったのでしょうか?この宇宙は人間に都合が良い?宇宙の始まりから私たち人間が登場するまでの宇宙の歴史と素粒子の不思議なふるまいを、素粒子理論を専門とする北野龍一郎(きたの りゅういちろう)教授が分かりやすく紐解いていきます。

現在参加者募集中です。毎回満席になっていますので、お申し込みはお早めに!
https://peatix.com/event/3740195/

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