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おとなのサイエンスカフェ第6夜、「宇宙と物質の起源~ちからを合わせて『見えない世界』を理解する」を開催しました

3月22日(金)、KEK素粒子原子核研究所(素核研)が主催する、おとなのサイエンスカフェ第6夜「宇宙と物質の起源~ちからを合わせて『見えない世界』を理解する」つくばセンタービル co-enで開催しました。

素核研では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙までの幅広い分野に対して、理論および実験の両側面から総合的研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。

 

6回目となる今回のサイエンスカフェでは、齊藤 直人(さいとう なおひと)素核研所長が話し手となりました。タイトルの「宇宙と物質の起源」は本イベント前日に講談社ブルーバックスから発刊された本と同じタイトルです。この本は、素核研で宇宙の謎を解き明かそうと日夜研究にいそしむ研究者らが執筆したものです。サイエンスカフェの副題は、ブルーバックスの本の副題(『見えない世界』を理解する)に加えて、「ちからを合わせて『見えない世界』を理解する」としました。素粒子物理学の研究は、一人では進められません。世界中の研究者が集まり、国際共同実験プロジェクトとして、力を合わせて研究を進めています。 


 

齊藤所長は、宇宙が誕生してから138億年という長い時間スケールをカール・セーガンが発明した「宇宙カレンダー」を用いて説明しました。宇宙カレンダーとは、宇宙誕生の瞬間を1月1日元日の午前0時とし、現在を12月31日大みそかの午後11時59分59秒に設定して、宇宙の歴史をカレンダーの1年間に圧縮して対応させたものです。宇宙カレンダーの1日は実際には約4000万年、1分は約2.5万年に対応します。そのスケールでみると、最初の天体が生成されたとされる、宇宙誕生から4億年後は1月11日にあたります。宇宙膨張が加速しはじめた約80億年は7月26日、太陽系形成は9月2日になります。11~12月には3回の全球凍結(地球全体が氷に覆われた)があったと考えられています。そして、私たちを含むホモ・サピエンスの登場は、12月31日の23時48分ということになります。

齊藤所長は、こうして考えた時に驚くべきことは、最後の12分しか存在していない人類が1年に対応する宇宙全体を理解することができることだと話しました。遠くを見れば過去が分かると言われますが、それに加えて実験によって確かめられたことを数学的な論理で繋げて理解し、その領域を広げていくサイエンスの力によって全体が理解できることが重要なポイントだと説明しました。

 

このほか、素核研が進めている5つの研究分野を紹介しました。人類未到の高エネルギーで新粒子発見を目指すエネルギーフロンティア、素粒子標準理論を超える新物理の発見を目指すフレーバー物理、宇宙誕生からまもない黎明期を調べる宇宙素粒子物理、どのように原子核が作られたかを探るハドロン核物理、そしてこれら全体を繋いで研究する理論分野を柱に研究を進めています。どの実験も国内外から多くの研究者が集まり、みんなで力を合わせて実験を行っています。その中でもKEKつくばキャンパスで行われているBelle II実験や、 J-PARCを舞台にしたニュートリノ振動を調べるT2K実験で、 どのような実験が行われているのか説明しました。さらに、 ミューオンの性質を精密に調べて素粒子標準理論を超える物理の発見を目指す、ミューオンg-2/EDM実験についても紹介しました。これは、齊藤所長が考案し、現在はJ-PARCにて次世代の研究者が引き継いで実験の準備を進めています。

 

齊藤所長は、点字本プロジェクト立ち上げの経緯や、今回ブルーバックスで発刊した本の編集と並行して筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センターの協力で点字化を進めてきたことも話題にしました。オーディオブックだけではなく点字にすることの意義として、指先で触れながら自分のスピードで理解して読むことが重要だと伝え、参加者には触図のサンプルを実際になぞってその感触を体験してもらいました。

最後に、 素核研で行う研究は先人の偉業の上に成り立っているもので、その知見や技術はより多くの人と分かち合うものであると参加者に伝え、サイエンスカフェを締めくくりました。


 

参加者からは、質量の起源やどのように粒子と粒子を衝突させるのか、といった質問が挙がったほか、「研究が協力、チームワークを大切にされていることと時空を超えたコラボレーションであること」「多くの研究者が関わって実験を行っていること」などが印象に残ったこととして挙げられていました。

おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。詳細が決まりましたら素核研webサイトやSNSでお知らせします。

素核研 Xhttps://twitter.com/kek_ipns

素核研Facebookhttps://www.facebook.com/KEK.IPNS/

 

これまでのおとなのサイエンスカフェのアーカイブ を素核研のYouTubeチャンネルで随時公開しています。下記のリンクにまとめていますので、ぜひご覧ください。

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