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おとなのサイエンスカフェ第16夜「素粒子から最先端技術(医療・産業)まで―加速器ってなに?」を開催しました
2026年1月13日
12月26日(金)、おとなのサイエンスカフェ第16夜「素粒子から最先端技術(医療・産業)まで―加速器ってなに?」をつくばセンタービル co-enで開催しました。
KEK素粒子原子核研究所(素核研)では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。
素核研で行う研究には加速器を用いることがほとんどですが、一方で加速器は、基礎研究にとどまらず幅広い分野で活用されています。今回のサイエンスカフェでは、KEK加速器研究施設 応用超伝導加速器イノベーションセンターの阪井 寛志(さかい ひろし)センター長に、加速器の原理や構造から医療・産業応用、さらに次世代の超伝導空洞技術まで詳しく解説してもらいました。
はじめに、阪井センター長は加速器の歴史を振り返り、現在主流となっているシンクロトロン(円形加速器)の基本的な仕組みを解説しました。1945年以降、高周波加速における位相安定性の原理の発見や、強収束法と呼ばれる新しいビーム収束法の発明によって、より高エネルギーで大型の加速器が実現してきたことを説明しました。さらに、現在多くの加速器で使われている常伝導加速空洞でのビーム加速について説明し、その後、KEKで開発を進めている超伝導加速空洞の特長について紹介しました。
国内の加速器の7割が医療用
国内には約2,000台の加速器があり、その7割が医療に用いられています。がん治療の現場では、外科療法や化学療法などと並んで、放射線療法による治療が普及しています。その中で、電子線やX線を用いる加速器は小型で汎用性が高く、国内には1,000台以上が導入されています。また、陽子線や重粒子線を用いた治療では、ビームが患部で止まる特性を活かし、腫瘍部分にビームを照射することが可能です。大型の加速器設備が必要なため、国内の施設数は十数箇所に限られますが、それでも世界最多であると阪井センター長は言います。
超伝導加速器開発から産業応用まで
後半は、KEKつくばキャンパスにあるSuperKEKB加速器や、放射光源施設(Photon Factory)を紹介後、超伝導加速空洞の技術開発について解説しました。超伝導空洞は空洞内の電気抵抗をほぼゼロにできるため、大電流ビームの連続加速が可能となり、省電力化にも貢献します。そのため、ILCなど将来の高性能な衝突型加速器に有用な技術であり、研究開発が続けられています。
KEKでは長年にわたり超伝導空洞の性能向上に取り組んできており、その成果によって高エネルギー・大電流ビームの実現が可能となりました。阪井センター長率いる、応用超伝導加速器イノベーションセンター(iCASA)では現在、エネルギー回収型線形加速器(ERL)の産業応用を見据えた研究開発が進められています。2016年には1mAで100%のエネルギー回収に成功し、2019年からは電子ビームの照射実験が開始されています。
ERLは「エネルギー回収」という発想により、極めて高いエネルギー効率と、世界で類を見ない高輝度・大電流ビーム運転を可能とする加速器で、現在はコンパクト版(cERL)が産業・医療応用実験施設として稼働中です。
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KEKつくばキャンパスにあるcERL加速器
さらに阪井センター長は、ERL技術を用いた次世代半導体リソグラフィー光源の開発についても紹介しました。半導体製造で使われるEUV光源は、回路を極めて細かく描くための特別な光を生み出す装置ですが、現在主流の方式では光の強さに限界があり、より高輝度の光が求められています。その課題を解決するため、加速器を用いて、より明るく安定したEUV光を生み出す新しい光源(EUV-FEL)の実現を目指すプロジェクトが2025年4月から始動しています。
阪井センター長は、超伝導加速器技術が基礎研究から産業応用まで幅広い可能性を持つと語りました。KEKでの加速器開発の醍醐味 (だいごみ)は、世界最先端の装置を一から開発できる点にあり、将来の加速器を担う若手研究者、学生がKEKのみならず、多様な大学・研究機関から参加して研究を進めていることを紹介して、サイエンスカフェを締めくくりました。
最後に、阪井センター長に夢を聞きました。
「長年、加速器の研究に携わってきました。超伝導技術をはじめとする加速器技術が、将来さまざまな場面で、もっと広く役立ってほしいと思っています。既存の加速器を安定して実験に活用することはもちろん、現在開発中の次世代技術を、将来KEKで実現を目指している実験にきちんと届け、安定した形でしっかり貢献したいと思っています。」
参加者からは、「ILCと違って、SuperKEKB加速器で電子と陽電子のエネルギーに差があるのはなぜですか」といった質問や、超伝導空洞に使用する材料に関する質問が寄せられました。また、「加速器が身近な存在になりつつある一方で、新しい方式の開発も進んでいることを知りワクワクしました」といった感想もありました。
当日の様子は素核研YouTubeにアーカイブ動画を公開する予定です。
素核研YouTubeチャンネル
おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、今後もシリーズで開催する予定です。
次回のおとなのサイエンスカフェは、2月13日(金)に開催します。
おとなのサイエンスカフェ第17夜「宇宙の始まりを探る巨大実験―LHCで何が見えてきたのか」
スイス・ジュネーブ近郊のCERNにある一周27kmの巨大加速器LHCと、そこで粒子同士の衝突を精密に観測するATLAS実験。今回は、日本のATLAS実験グループの研究者が、 “宇宙の成り立ちを探る装置”のしくみや実験目的を、研究現場の裏話やAI活用の話題とともにカジュアルにお話します。最先端研究をぐっと身近に感じられる、おとな向けのサイエンスカフェをお楽しみください。
▼詳細や参加お申込みはこちらから▼
https://otona-sciencecafe-17.peatix.com/







