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多摩六都科学館プラネタリウム講演会「巨大加速器LHCで探る宇宙—Phantom of the Universe—」を開催しました

3月20日(金・祝)に、多摩六都科学館のプラネタリウムドーム「サイエンスエッグ」において、KEKと多摩六都科学館の共催による講演会「巨大加速器LHCで探る宇宙—Phantom of the Universe—」を開催しました。本講演会は2018年から開催しており、今回で6回目となります。

 


スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN)では、世界最大の粒子加速器LHCを使って、誕生直後の宇宙を支配していた素粒子やその現象を研究する素粒子実験を行っており、KEKも一員として参加しています。講演会では初めに、プラネタリウム用大型映像「Phantom of the Universe」を上映し、世界最先端のさまざまな装置を用いて正体不明の物質「ダークマター」を探る実験が紹介されました。

上映後は、KEK素粒子原子核研究所(素核研)の戸本 誠(ともと まこと)副所長と、素核研測定器開発センターの江成 祐二(えなり ゆうじ)准教授による講演が行われました。

 

LHCには4つの衝突点があり、その一つにATLAS検出器が設置されています。ここでは、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の性質を調べる研究や新粒子の探索などの実験が行われています。LHC/ATLAS実験には、40の国と地域、176の大学・研究所から約3000人の研究者が参加しています。戸本副所長は2006年からこのATLAS国際共同実験に携わっており、現在はこのATLAS実験日本グループの代表を務めています。

戸本副所長は「私たちが宇宙について分かっていることは、実はほんの一部にすぎない」という話から始めました。現在の宇宙の構成を見ると、私たちがよく知っている通常の物質は、全体のわずか約5%にすぎず、ダークマターが約27%を占めると考えられています。ダークマターはほとんど他の物質と相互作用しないため、直接見ることができません。しかし、重力の効果によって銀河や銀河団の形成に関わってきたと考えられており、宇宙の進化を理解するうえで欠かせない存在です。

一方、私たちが知っている物質はクォークとレプトンという基本粒子からできていると理解されています。また、それらの間に働く力も力を媒介する粒子によって伝えられると理解されています。戸本副所長は、クォークやレプトンには同じ性質を持ちながら、質量だけが異なる「世代」が3つ存在すると説明しました。しかし、なぜこのような構造になっているのかは、まだ分かっていません。また、弱い相互作用を媒介する粒子にも質量があることを説明しました。

素粒子の質量はどこから生まれるのか

質量とは、「動きにくさ」を表す量です。重い物体ほど動かしにくく、止めにくいという性質があります。では、素粒子の質量はどこから来るのでしょうか。その鍵となるのが、「ヒッグス場(ヒッグスの海)」です。素粒子物理学では、真空は単なる「何もない空間」ではなく、「ヒッグスの海」で満たされていると考えます。戸本副所長はこれを、人がたくさん集まった部屋になぞらえて説明しました。そこを有名人が通ると、その人の周囲に人が集まり、動きにくくなります。その“動きにくさ”こそが、質量に対応します。それと同じように、素粒子はヒッグス場との相互作用によって質量を獲得すると考えられています。宇宙初期には現在とは異なる状態にあったヒッグス場が、宇宙が冷えるとともに変化し、その結果として素粒子が動きにくくなった(質量が生まれた)と考えられています。

戸本副所長は、ヒッグス場を加速器でどのように観測するのか説明しました。高エネルギーに加速した粒子同士を衝突させて非常に高いエネルギーの状態を作ると、静かな水面に波面が現れるように、ヒッグス場からヒッグス粒子が現れます。ヒッグス粒子はすぐに崩壊して、別の粒子に姿を変え、その粒子を検出器でとらえてヒッグス粒子を観測します。ヒッグス粒子は質量の大きな素粒子に崩壊しやすいことが分かっているので、粒子を調べることでヒッグス粒子を狙ってつかまえることが可能です。このような方法を使って、2012年にLHC実験でヒッグス粒子を発見しました。ヒッグス場は人類が遭遇した初めてのものであり、謎だらけでその性質はほとんど分かっていません。現在はヒッグス粒子をたくさん作りだし、その性質を調べることで、ヒッグス場の性質を徹底的に調べあげようとしています。

ダークマターの正体を探る

講演では、ヒッグス粒子の謎を理解するには超対称性粒子のような新しい素粒子が必要である可能性が高いこと、そして、その新しい素粒子がダークマターの候補となり得ることが説明されました。さらには、ダークマター探索の方法についても紹介されました。ダークマターを探す方法には、宇宙からの観測、地下での直接検出、そして加速器で作り出して調べる方法があります。このうちLHC/ATLAS実験では、陽子同士を衝突させて未知の粒子を生成し、その中にダークマター候補が含まれていないかを探ります。ダークマターは検出器をすり抜けてしまうため、直接その姿を見ることはできません。その代わり、検出器に信号を残さない大きな領域があれば、「見えない粒子が飛び去ったのではないか」と推定できます。LHC/ATLAS実験では、こうした“見えない信号”を手がかりにダークマターを探索しています。

こうした素粒子実験は国際協力で進められており、日本も検出器開発やデータ解析に大きく貢献しています。また、多くの大学院生や若手研究者が現地で装置開発や解析に携わっており、検出器開発の貢献を称えられて表彰されるなど目覚ましい活躍をしています。
今年の6月から約3年かけてアップグレードを行い、2030年代にはより多くの衝突を実現する「高輝度LHC(HL-LHC)」を稼働します。戸本副所長は、これにより「ヒッグス粒子の性質の精密測定」や「ダークマターや新粒子の探索」がさらに進むと期待していると述べて講演を終えました。

 

巨大検出器の内部へ――ATLAS実験の現場をのぞく

続いて、江成准教授から、ATLAS検出器の内部を実際に撮影した映像をもとに、普段は限られた関係者しか立ち入ることのできない実験空間の様子が紹介されました。

ATLAS検出器は高さ約25メートル、長さ約40メートルに及ぶ巨大な検出器です。その内部でのメンテナンスや調整には、人が足場やはしごを使って装置のすき間に入り込んで作業を行っています。粒子衝突の中心に近づくにつれて環境はより厳しくなり、放射線被ばくや酸欠などに対する安全管理のもとで進められていることが紹介されました。映像は、最先端の研究が極めて大規模な装置と人の手によって支えられていることを印象づけるものでした。

会場からは、「宇宙のどこまでが分かっていて、何が分かっていないのか」「ダークマターはいつ見つかるのか」といった疑問から、検出器の仕組みや国際共同研究の進め方に関する専門的な質問まで、幅広い問いが寄せられました。

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