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おとなのサイエンスカフェ第19夜「質量について何でも聞いてみよう」を開催しました
2026年6月29日
私たちの身の回りにあるあらゆる物質には「質量」があります。しかし、「そもそもなぜ物質には質量があるのか」と考えたことはあるでしょうか。一見当たり前に思える「質量」ですが、物理学の理論では、素粒子は本来質量を持たない方が自然だと考えられています。それにもかかわらず、実際にはあらゆる物質が質量を持っています。なぜ本来ないはずの質量が存在するのか――これは現代物理学において完全には解き明かされていない大きな謎のひとつです。
今回は、理論センターの橋本省二(はしもと しょうじ)センター長が登壇し、質量とは何か、質量と重さはどう違うのか、さらにヒッグス粒子だけでは説明できない物質の質量の仕組みについて解説しました。
質量とは閉じ込められたエネルギー?
はじめに橋本センター長は、アインシュタインの有名な式「E=mc2」を紹介しました。この式はエネルギー(E)と質量(m)が本質的に同じものであることを示しています。エネルギーには運動エネルギーや熱エネルギー、化学エネルギーなどさまざまな形がありますが、その総量は常に保存されます。この考え方をもとに、橋本センター長は「光を閉じ込めると質量に見える」ことを、鏡を用いた例を使って説明しました。光子そのものには質量がなく、本来は光速で運動しています。しかし、例えば合わせ鏡に光を閉じ込めると、その光は狭い空間の中を往復することしかできなくなります。こうして閉じ込められたエネルギー全体は、外から見るとあたかも質量を持つかのように見えるのです。
この考え方は陽子にも当てはまります。陽子の内部には3つのクォークが存在しますが、これらのクォークは単独で外に飛び出すことはできず、陽子の中に閉じ込められています。クォークそのものの質量はほぼゼロですが、陽子内部に閉じ込められたエネルギー全体が質量として現れ、私たちが観測する陽子の質量の大部分を生み出しているのです。これが、陽子が質量を持つ仕組みだと橋本センター長は説明しました。
ヒッグス粒子は物質の2%しか説明できない
では、本来ないはずの質量はどのように生まれているのでしょうか。橋本センター長は、一般に知られている「ヒッグス粒子が質量を生み出す」という説明だけでは、物質の質量の大部分を説明できないと語りました。2012年に発見されたヒッグス粒子は、「ヒッグス場」と呼ばれる場が真空を満たし、素粒子がヒッグス場と相互作用することで質量を獲得する仕組みを示したものです。しかし、ヒッグス場によって生まれる質量は、物質全体のおよそ2%に過ぎません。残りの98%の質量は、陽子や中性子の内部に由来します。陽子の中では、クォークだけでなく、量子論によってさまざまな粒子が次々に生まれ、複雑に入り混じった状態になっています。こうした粒子が小さな空間の中で絶えず動き回ることで生じるエネルギーが、質量として現れていると橋本センター長は説明しました。
質量と重さはどう違う?
質量とは、物体がどれだけ動かしにくいかを表します。一方、重さとは、地球などの天体が持つ重力によって物体にかかる力を指します。橋本センター長は、私たちが普段同じもののように捉えている「質量」と「重さ」は、物理学では異なる概念だと説明しました。そして、不思議なことに、重力を受けて物体が落下するときの加速度は、その物体の質量によって変わりません。橋本センター長は、この「どんな質量の物体も同じように加速する」という性質にアインシュタインが着目し、「加速していることと重力は本質的に同じではないか」という発想に至ったことを紹介しました。こうした思考実験を積み重ねた結果、一般相対性理論が生まれ、「重力とは空間や時間のゆがみそのものである」という考えにたどり着いたと説明しました。
会場では終始、橋本センター長と参加者との活発なやり取りが続きました。最後に将来の「夢」を問われると、橋本センター長は「素粒子のシミュレーションを量子コンピューターで自由に動かせるようになること」と語りました。
イベント後のアンケートでは、
- 「エネルギーを一カ所に集めることができれば、それは質量になるという考え方に感銘を受けた」
- 「光の速さで飛べない状態が質量として観測されるという説明が印象的だった」
- 「シンプルな説明だったが、とても説得力があり理解しやすかった」
といった感想が寄せられました。参加者にとって、“当たり前にある”と思っていた「質量」を新しい視点から考え、知る楽しさにあふれる時間となりました。
当日の様子は素核研YouTubeにアーカイブ動画を公開する予定です。
素核研YouTubeチャンネル
素核研では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論と実験の両面から研究を進めており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。「おとなのサイエンスカフェ」はそうした研究の面白さを、お酒やおつまみを楽しみながら研究者と対話し、身近に感じてもらうために企画したものです。今後もシリーズとして開催していく予定です。
次回は、7月31日(金)に開催します。
詳細・お申込みはこちらから
https://otona-sciencecafe-20.peatix.com/






