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京都で初開催「おとなのサイエンスカフェ」―見えている世界の、その先へ
2026年9月20日
8月28日、京都で初めてとなる「おとなのサイエンスカフェ」を開催しました。今回のテーマは「見えている世界の、その先へ―人はなぜ“未知”にひかれるのか」。第1部では加速器で宇宙のはじまりに迫る研究を紹介し、第2部では「人はなぜ“未知”にひかれるのか」と題してトークセッションを行いました。参加者からも多くの質問が寄せられ、科学と哲学を行き来しながら、次々と問いが生まれる時間となりました。
会場は、第一工業製薬株式会社の交流スペース「MUSUBU」。当日は満席となり、壁のない開放的な空間で、登壇者と参加者が近い距離で語り合いました。
宇宙のはじまりに触れる
第1部では、KEKの浅井 祥仁(あさい しょうじ)機構長が「宇宙のはじまりに触れる―見たことのないスケールの世界」と題してオープニングトークを行いました。
宇宙は約138億年前にどのように始まったのでしょうか。そして、私たちをつくる物質はどのように生まれたのでしょうか。
浅井機構長は、宇宙の大きなスケールから素粒子の小さな世界までを行き来しながら、宇宙のはじまりを探る研究を紹介しました。研究のための重要な道具の一つが「加速器」です。粒子を高いエネルギーまで加速して衝突させることで、宇宙誕生直後に相当する高いエネルギー密度の状態をつくり、何が起きるのかを調べます。加速器は約100年にわたって高性能化してきました。講演では、宇宙や物質の成り立ちを探る加速器として、KEKのSuperKEKBやCERNのLHCが紹介されました。
話はさらに、2012年に発見されたヒッグス粒子、宇宙を満たすヒッグス場や真空のエネルギー、宇宙のインフレーションへと進みました。そして、「なぜ私たちの宇宙はこのような姿になったのか」と参加者に問いかけました。浅井機構長は、私たちの宇宙とは異なる宇宙も存在するのではないかとする「マルチバース」や、人間が存在できる宇宙だからこそ私たちはここにいると考える「人間原理」にも触れ、「科学は、実はこういう哲学っぽいところまで来ている」と語りました。
宇宙のはじまりを突き詰めていくと、物理学だけでは収まりきらない問いが現れてきます。その余韻を残したまま、第2部のトークセッションへと移りました。
科学と哲学から「未知」を語る
第2部では、「問いを立てる」を研究・発信する京都大学の宮野 公樹(みやの なおき)准教授、浅井機構長、科学ジャーナリストでKEK理事の元村 有希子(もとむら ゆきこ)氏が登壇しました。元村理事の進行で、トークセッションが始まりました。
一般相対性理論や量子力学から、「物質とは何か」「私たちが見ている世界は本当にそこにあるのか」といった問いへと議論が広がりました。物理学の最前線を突き詰めていくうちに、話題はいつしか、哲学が長い時間をかけて問い続けてきた「存在」や「知ること」にも重なっていきました。
「それを知って、何になるの?」
元村理事から投げかけられた問いに、浅井機構長は「単に知りたい」と答えます。未知だったことがわかり、誰も見たことのないところまで見えること自体が、研究を続ける原動力になっていると語りました。これに対し、宮野准教授は「研究者である前に探究者」だと語りました。自然科学者だけでなく、哲学者もアーティストも、それぞれに探究するものを持っている。何を突き詰めるかは違っても、「探究者」という視点に立てば、学問分野の垣根を越えて対話することができるのではないかと話します。
参加者からの質問も交えて
参加者からも次々と質問が寄せられました。
「科学者は高い山があれば登りたいというけれど、実は山があるのではなく、自分たちで山をつくって、それを登っているのでは?」そんな問いに、浅井機構長は「山はみんなでつくる」と答えました。研究者たちが「これは面白いかもしれない」と一つの問いに向かい、議論を重ねる中で、研究分野そのものが形づくられていく。そのためには、面白い問いを見つける「嗅覚」だけでなく、異なる専門を持つ人たちを巻き込む力も大切だと浅井機構長は話しました。宮野准教授も、一人ひとりがそれぞれの「山」を持っていると応じます。学問の垣根をなくしていきたいという思いから、「山というより牧場」と表現し、さまざまな分野や立場の人が集まり、それぞれの探究を持ち寄る場と捉えれば、研究者とそうでない人の間にも共通するものが見えてくると語りました。
また、「ヒッグス粒子の発見以降、素粒子物理学では何を大きな問いとして追いかけているのか」という質問に対し、浅井機構長は、「時間と空間と素粒子」が実は切り離せないものなのではないかという問いを挙げました。私たちが「粒」として考えている素粒子とは本当は何なのか。時間や空間とは何なのか。最先端の物理学が向き合う問いが紹介されると、そこから哲学における「存在」をめぐる議論へと話がつながっていきました。
第2部は、登壇者が一方的に語るのではなく、参加者から投げかけられる問いによって、話が思わぬ方向へ展開していく、双方向のトークセッションとなりました。
未知への挑戦を、次世代につなぐ
話題は、基礎科学を未来へどうつないでいくのかにも及びました。
浅井機構長は、研究にも短期間で成果を出すことが求められる傾向に触れ、「5年で結果を出す」ことを求められれば、5年で結果が出そうな研究しか提案できなくなってしまうと指摘。まったくわかっていないことを調べようとすれば、10年、20年、さらに長い時間が必要になることもあると話しました。また、最先端の研究を進めるためには、国際協力を広げていくと同時に、量子技術など、これまでとはまったく異なる方法によるブレイクスルーも探る必要があると語りました。
たくさんの問いが飛び交った今回のおとなのサイエンスカフェの最後に元村理事は、ダークエネルギーによる宇宙の加速膨張になぞらえ、「私の疑問も加速膨張しています」と、トークセッションを締めくくりました。
参加者からは、「わからないことが面白いというのが、なんか面白かった」「まったく分野違いで理解が追いつかなかったのですが、好奇心が湧き出る楽しい話でした」「まったく無知の分野の話でも面白い時間を過ごせました」といった感想が寄せられました。
登壇者と参加者が一緒になって「見えている世界の、その先」に思いを巡らせ、次々と生まれる問いを楽しんだ京都の夜となりました。
素核研では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論と実験の両面から研究を進めており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。「おとなのサイエンスカフェ」は、研究者との対話や、お酒やおつまみを楽しみながら、研究の面白さを身近に感じてもらうために企画したものです。今後もシリーズとして開催していく予定です。







