2020年8月4日から7日にかけて、オンライン国際研究会「Asia-Pacific Symposium for Lattice Field Theory (APLAT 2020)」がKEK理論センター主催で開催され、世界の25カ国から333名の研究者が参加しました。
本研究会は、格子場の理論(注1)に関する世界最大規模の国際研究会「International Symposium on Lattice Field Theory」を補うために開催されたものです。毎年夏に世界各国の持ち回りで開催されており、38回目となる今年はドイツで開催予定でしたが、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため対面形式での実施が延期となってしまいました。そこで、有志による呼びかけで、オンラインという初めての試みで代替となる研究会を開催することとなりました。
世界中の研究者が参加するため、オンライン開催では参加者同士の生活時間がどうしてもバラバラになるという問題が生じます。今回はアジア・オセアニアの時間帯に合わせ、「Asia-Pacific Symposium for Lattice Field Theory (APLAT 2020)」という形での実施となりました。時間帯はアジア・オセアニアに合わせていますが、もちろん世界中どこからでも参加は可能です。実際、参加者の約半数はヨーロッパ(現地時間では朝の時間帯)からでした。
APLAT 2020では、例えば、KEKつくばキャンパスにあるSuperKEKB加速器を用いたBelle II実験で必要となる量子色力学の精密な計算や、陽子内部の構造をシミュレーションで調べる研究、陽子や中性子を形成するクォークが高温下でどうなるかを調べる研究などについて、最新の研究成果が発表・議論されました。他にも今年注目の話題として、スーパーコンピュータ「富岳」での性能の報告や、量子コンピュータをどのように利用して計算すればいいのかといった将来を見据えた議論も交わされました。
講演はビデオチャットツールで講演者が資料を共有しながら発表する形で行われました。発表後には、チャット機能から絵文字で拍手を送るといったオンライン形式ならではのやり取りも見られました。
開催後の参加者アンケートからは「APLAT 2020を開催していただき感謝しています」、「主な研究会が軒並み中止になっていたので、最新の研究成果を把握できる素晴らしい機会となりました」、「(オンラインという)このような方法で上手くいくことが証明されましたし、将来、コロナ渦が明けた後でもこのような方向性の研究会はぜひ続けて欲しいです」といった声が寄せられました。
KEK理論センター長の橋本省二 教授は「Lattice研究会は、若手研究者にとって国際的な場で発表する良い機会となっている面もあるので、オンラインという形でも実施できてよかったです。Lattice研究会のオンライン開催は初めてでしたが、研究会の準備は簡単に出来ましたし、発表自体も問題は全くありませんでした。参加者も自宅にいながらいつも通りの状態で参加できるのでその点は便利でした。従来の対面形式とは異なり、休憩時間等に個々人で気軽に議論するのが困難だった点は課題ですが、様々なコミュニケーションツールを検討するなど試行錯誤して改善できればと思います。今回、どこかの地域の時間帯に合わせざるを得ませんでしたが、それでもヨーロッパからも非常に多くの参加者があり、大変盛り上がりました。」と、Lattice研究会初となるオンライン開催を振り返っていました。
KEKでは新型コロナウィルス感染対策として、今後もオンライン研究会などの新しい研究様式に積極的に取り組みます。
用語解説
注1. 格子場の理論
格子状に区切られた4次元の箱の中にクォーク(物質を構成する素粒子の一種)を表す「場」を定義して数値計算する素粒子の理論。大規模シミュレーションによって素粒子の性質を調べることができます。
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