2010年12月27日
KEKの栗本佳典(くりもと・よしのり)氏、大阪大学基礎工学研究科の若林裕助(わかばやし・ゆうすけ)氏、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の吉田鉄平(よしだ・てっぺい)氏が日本物理学会若手奨励賞を受賞されました。
本賞は社団法人日本物理学会によって、将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、学会を活性化するために設けられました。
受賞対象となった研究題目はそれぞれ以下の通りです。
- 栗本佳典氏
- 「Measurement of Neutral Current Neutral Pion Production on Carbon in a Few-GeV Neutrino Beam
(炭素標的を用いた数GeV領域のニュートリノビームによる中性カレント中性パイオン生成反応)」- 若林裕助氏
- 「"Sub-Å resolution electron density analysis of the surface of the organic rubrene crystals" Phys. Rev. Lett. 104, 066103 (2010).」
(有機結晶ルブレン表面のサブオングストローム分解能電子密度解析)- 「"Synchrotron X-ray scattering on One-Dimensional Charge-Ordered MMX-Chain Complexes, J. Am. Chem. Soc., 128, 6676 (2006).」
(一次元電荷秩序したMMX鎖錯体の放射光X線散乱)- 吉田鉄平氏
- 「Metallic Behavior of Lightly Doped La2-xSrxCuO4 with a Fermi Surface Forming an Arc, Phys. Rev. Lett. 91, 027001 (2003).」
- 「Systematic doping evolution of the underlying Fermi surface in La2-xSrxCuO4, Phys. Rev. B 74, 224510 (2006).」
- 「Universal versus Meterial-Dependent Two-Gap Behaviors of the High-Tc Cuprate Superconductors: Angle-Resolved Photoemission Study of La2-xSrxCuO4, Phys. Rev. Lett. 037004 (2009).」
(高温超伝導体における2成分ギャップの普遍的振舞いと物質依存した振舞いの対比:角度分解光電子分光によるLa2-xSrxCuO4の研究)
栗本氏は、米国フェルミ国立加速器研究所で行われているSciBooNE実験(FNAL E954)の初期から、実験グループの中心で活躍し、特に実験のデータ収集システムの構築と運用を担当しました。SciBooNE実験は、フェルミ研の陽子加速器により生成されたニュートリノビームを使ってニュートリノと原子核の反応を精密に測定しています。論文では、SciBooNE実験での、荷電が変化しない「中性カレント」反応における中性のパイ中間子の生成反応を世界最高精度で測定した結果が論じられています。ニュートリノ研究の分野では広く活用されているライン・シーゲルモデルを確認し、現在行われているニュートリノ反応実験に大きなインパクトを与えたことが評価されました。
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若林氏は、KEKフォトンファクトリー(PF)の旧BL-1A(現8A)および4C等を用いて散漫散乱と共鳴X線散乱の測定結果を組み合わせた解析手法により、擬一次元物質の電子状態を直接観測できる手法を開発しました。このような測定は、次元性を下げることによる効果を直接観察できるため、微細化する電子デバイスを設計上、重要な開発要素になります。この手法を用いて擬一次元MMX錯体の電子状態を世界に先駆けて明らかにしたこと、また有機トランジスタやダイオードの働く"その場所"を観察できることを示したことが評価されました。これらの研究は、これまでにNews@KEKなどでも取り上げられています。
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吉田氏は、銅酸化物高温超伝導体における電子そのものの振舞いを観測する研究を行いました。超伝導は、通常反発しあうはずの電子がペアになり引き合うことで起こり、ペアの結合エネルギーを反映してバンド分散にエネルギーギャップが開きます。そこで、電子の振舞いを調べることができる角度分解光電子分光法を用いてLa2-xSrxCuO4のエネルギーギャップのドーピングおよび温度依存性を測定しました。その結果、電子ペアを起源とするギャップと、超伝導と異なる性質をもつギャップ、の2成分が存在することが分かりました。この研究の一部はPFのBL-28Aを用いて行われました。
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授賞式および受賞記念講演は、2011年3月に行われる予定です。