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低電力のデバイス設計へ新たな道 2010.2.25 |
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〜 トランジスタの伝導層での分子変形を観測 〜 |
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今やだれもが持ち、毎日見る携帯電話やデジカメに使われている画面。これには液晶ディスプレイと有機ELディスプレイの2種類あるのを知っていますか? この2種類は一見似ていますが中の作りは全然違います。液晶ディスプレイは裏から照らしているのに対し、有機ELディスプレイは自分自身が光っているのです。そしてその光る場所というのは、有機物(分子のかたまり)で作った発光ダイオードになっています。ダイオードは2種類の半導体を貼り合わせ、その境目(界面といいます)の性質を使って作られています。今回は、この境目で有機物がどんな姿をしているかを初めて見る事に成功した、というお話です。 注目の物質「ルブレン」 まず、何を見たのかからお話ししましょう。「ルブレン」という炭素と水素からできている分子で、有機ELディスプレイでは黄色を出すために使われています。ルブレンは、有機ELのほか、優秀なトランジスタになるので非常に注目されている素材です。 さまざまな電子回路に使われているトランジスタは、2種類の半導体の境目の性質を利用しています。ルブレントランジスタ(図1)では電気が流れる部分はシリコンとルブレンの境目で、数ナノメートル(分子10層分以下)という非常に薄い領域であることがわかっていました。この電気が流れる部分の分子の構造は、トランジスタの性能に直接関係するところなので多くの人が知りたいと思っていました。しかし、これほど薄い領域の構造を見るのは簡単ではありません。 原子の10分の1まで見えた そこで、大阪大学の若林裕助准教授と木村剛教授のグループは、ルブレンの結晶(図2)を作り、それを平らなシリコン板の上にペタリと貼り付けて、ルブレントランジスタのモデル物質を作りました。 若林准教授は、シリコンなどもっと単純な作りの物質の表面を調べるのに使われていた手法をとても複雑な作りのルブレン結晶に適用できないかと考えました。測定に使った装置はKEKフォトンファクトリーのBL-4Cにある回折計(図3)です。装置そのものは20年以上使われている標準的なものです。これを使ってルブレンにX線を照射し、反射したX線の強さを測りました。 こうして得られたデータを今世紀に入ってから提案された最新の解析法で解析することによって、ルブレンがシリコンとの境目付近で図4のような形になっていることがわかりました。ルブレン分子1つあたりに6つの山が見えますね。山の高さや位置は、分子の形を表しています。一番左にあるのが表面のルブレン分子、そして次の層にある分子が順番に右に並んでいます。 この解析結果を見ると、最も表面のルブレン分子のみ、山の形がちょっと違っていて、2番目以降はほとんど同じ形であることがわかります。表面の1分子層のみ変形が起こっていて、あとは同じ分子構造であることがわかりました。この解析法の精度は非常に高く、原子の大きさの10分の1ほどの変形まではっきりと見ることができました。 より低電力、高輝度なデバイス素材へ このような測定によって、有機トランジスタやダイオードとして働く"その場所"を見る事が可能であることがわかりました。今後、同様の手法で様々な有機デバイス素材を調べる事で、高い性能のデバイス素材―より少ない消費電力で計算ができたり、より明るく光ったり―を設計する事ができるようになるはずです。 この研究成果はアメリカ物理学会が発行する学術雑誌Physical Review Lettersの2010年2月12日号に掲載されました。
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