第2回KEK-TRIUMF科学シンポジウム、バンクーバーで開催

 
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ブリティッシュ・コロンビア州 中小企業技術経済開発省副大臣のDon Fast氏

10月25日(月)、KEK-TRIUMF科学シンポジウムがバンクーバーで開催されました。

本シンポジウムは両機関の展望や、現状行われている研究協力の現状・成果について共通認識を形成することにより、さらなる協力の可能性を検討することを目標とするとともに、両機関のトップを含めた、定期的な公式コミュニケーションの場を持つことにより、両機関間の相互理解と密接な協力関係の維持促進を目的としたもの。昨年7月に日加修好80周年記念事業の一環として、KEKとTRIUMF研究所(カナダの国立素粒子原子核物理研究所)が合同で開催したシンポジウムにおいて、ナイジェル・ロッキーアTRIUMF所長と鈴木厚人KEK機構長との間で、定期的なシンポジウムの開催が合意されたことを受け、第2回目として開催されました。

研究者を中心に約80名が参加した本シンポジウムはブリティッシュ・コロンビア州中小企業技術経済開発省副大臣のDon Fast氏による歓迎の辞で始まりました。午前の部では、ロッキーア所長及び鈴木機構長から、両機関で推進する研究プロジェクトの現状と今後の展望が、そして日加間の国際協力研究プロジェクトの代表例として、T2K実験※1ATLAS実験※2超冷中性子研究※3MuSR※4の各プロジェクトについての報告がありました。午後の部では、KEKB加速器、ニュートリノ物理を研究する大型地下施設「SNOLAB」や次世代の電子・陽電子衝突型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」等における加速器と測定器開発の現状や今後の計画について、両機関からの報告と意見交換が行われました。

シンポジウムの締めくくりとして、今後の国際的な研究活動を推進する枠組みの在り方や、基礎科学と応用科学のバランスといった問題について、(独)日本学術振興会(JSPS)ワシントン事務所長の菅原寛孝元KEK機構長をチェアに迎えてパネルディスカッションを行いました。パネリストらの討論のみならず、出席者からも活発に意見や質問が飛び交い、盛況のなかシンポジウムは幕を閉じました。

<補足説明>

※1 T2K実験
T2K実験は、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)で作られた世界最大強度のニュートリノビームを295km離れたスーパーカミオカンデに打ち込み、ニュートリノが飛行するうちに生成時とは別の種類のニュートリノに変化する様子(ニュートリノ振動)を精密に観測する実験。

※2 ATLAS実験
ATLASとは、高エネルギー物理実験を目的として欧州合同原子核研究機構(CERN)が建設した世界最大の衝突型円型加速器「大型ハドロンコライダー(LHC)」の実験グループのひとつ、またはその実験装置の名称のこと。ATLAS実験は、陽子-陽子衝突によって得られた、素粒子を観測することを目的としており、標準理論の検証や、それを超える新しい物理の研究が行われる。

※3 超冷中性子研究
超冷中性子(UCN)とは、極端に低いエネルギーの中性子のこと。UCNは、中性子電気双極子能率、寿命、β崩壊角相関等の核物理学の研究や、物質の表面の高感度プローブとして物質科学の研究等、素粒子・原子核から物質科学にまたがる様々な分野での利用が期待されている。

※4 MuSR
MuSR(μSR)とは、「ミュオンスピン回転/緩和/共鳴」のことで、スピン偏極したミュオンを物質中に注入し、ミュオンスピンの感じる内部磁場の大きさや揺らぎを実時間で捕らえることにより物質の様々な性質を明らかにする手法を指す。この協力枠組みでは、ミュオンビームを用いた実験の相互利用、実験装置、解析技術などの開発による相互の交流を通してミュオンサイエンスを推進する。
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