高エネルギー素粒子宇宙物理学に挑む

 

image_01.jpg
ガンマ線バーストの想像図。Credit: NASA/SkyWorks Digital

宇宙から地球に降り注ぐ素粒子のエネルギーは、1兆電子ボルト(1テラ電子ボルト)の1億倍という超高エネルギーにまで達します。これは地上の加速器で加速できるエネルギーを遥かに超えるものです。そのような超高エネルギー素粒子がどのように作りだされているのか、そのメカニズムは謎に満ちています。

超高エネルギー素粒子を発生させる現象としては、X線よりさらにエネルギーの高いガンマ線と呼ばれる電磁波を数秒間突然放出する「ガンマ線バースト」や、銀河中心にあり銀河の1万倍と非常に明るく輝いている銀河の核「活動銀河核」などがあります。これらの天体では、中心のブラックホールから光の速度の99%~99.9999%という超高速で大量の素粒子がジェットのように放出されていると考えられています。しかし、これらの現象がなぜ起きるのか、その発生機構は難問として残っています。暗黒物質(ダークマター)の対消滅や崩壊もこうした高エネルギー素粒子の起源になりえます。それゆえ、このような宇宙の超高エネルギー素粒子の研究は、超対称性理論などの標準理論を超えた物理理論の検証にも役立ちます。

高エネルギー素粒子宇宙物理は、物理学そのものだけでなく技術に関してもKEKと深い関わりがあります。宇宙の実験でも、地上の加速器実験で使われるような検出器を用いて高エネルギー素粒子を捉えているからです。KEKで培われた素粒子の検出技術が活かされる分野となっており、宇宙からの反陽子を測定する国際共同実験「BESS実験」にもKEKは参加しています。

4 年前には、素粒子・原子核・重力・時空に関する基礎理論に基づいて新たな天体現象や宇宙進化の謎の解明を目指す「理論宇宙物理グループ」と、宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)の精密観測による宇宙の起源の探究を目指す「CMB実験グループ」がKEKに新たに加わり、高エネルギー素粒子宇宙物理・宇宙論研究を推進する体制が強化されました。

理論宇宙物理グループは高エネルギー宇宙物理学の基礎的問題点を解明する研究会を毎年開催しています。4年目の今年もKEK小林ホールにて、国際研究会「High Energy Astroparticle Physics 2011- Gamma-Ray Universe: Fermi to CTA (HEAP 2011:高エネルギー素粒子宇宙物理 2011、ガンマ線宇宙:フェルミからCTAへ)」を、11月13日(日)から三日間、素粒子現象論グループと共同で開催しました。外国人13名を含む60名を超す参加者によって活発に議論が行われました。

image_02.jpg
フェルミ衛星が観測したガンマ線の全天マップ。

このHEAP 2011研究会では特に宇宙からのガンマ線に焦点が当てられました。近年、フェルミ(Fermi)衛星と呼ばれるガンマ線宇宙望遠鏡(旧GLAST衛星)が打ち上げられ、数多くの発見をしています。例えば、これまで知られていた数10億電子ボルトのガンマ線源の数はおよそ百個程度でしたが、フェルミ衛星の観測により一気に千個近くに増えました。なお、KEKも日米科学技術協力事業の一環としてフェルミ衛星へのサポートを行っております(1*

また本研究会では、フェルミ衛星よりもより高いエネルギーのガンマ線源を捉えるために国際的に進められているチェレンコフ望遠鏡アレイ計画(Cherenkov Telescope Array; CTA)に関する議論もありました。CTAは、光子を用いる天文台としては最も高エネルギーのフロンティアを開拓するもので、数兆電子ボルトの超高エネルギーガンマ線源の観測数を現在の百個程度から千個程度に引き上げると予想されています。日本は2009年からCTAへの参加を表明し、大きな貢献をするようになりました。今後も理論・実験双方からの活躍が期待されています。

image_03.jpg
次世代のガンマ線チェレンコフ望遠鏡アレイ実験(Cherenkov Telescope Array; CTA実験)。2017年から観測開始予定。

image_04.jpg
高エネルギー宇宙物理研究会HEAP 2011の全体写真。

ダークマターが発する高エネルギーガンマ線現象の考察のように、宇宙と素粒子の境界領域が重要になってきているのも最近の研究の流れの一つです。また、ガンマ線が放射されるときは、ニュートリノや電子、陽子なども同時に放射されることが多いため、光子に加えて他の素粒子も同時に観測することが必須になってきています。本研究会では、これらの高エネルギー素粒子宇宙物理の新しい流れと、そこから生まれる次なるブレークスルーについても活発な議論が行われました。

image_05.jpg
手嶋政廣教授(MPI/ICRR)による、超高エネルギーガンマ線観測の進展とCTA計画についての講演。

image_06.jpg
Subir Sarkar教授(Oxford)によるダークマターからのガンマ線シグナルについての講演とサマリートーク。

(1* 2011年12月2日追記

関連サイト

KEK理論センター
実験的宇宙論研究

関連記事

News@KEK 2008.07.10
宇宙を見つめる半導体の眼

TOP