国際リニアコライダー:技術設計のその先へ

 

ILC ニュースライン3月22日号より

国際リニアコライダー(ILC)のような巨大国際プロジェクトの実現には、技術設計の完成の他に、数多くの課題に取り組む必要がある。今年2月、先端加速器科学技術推進協議会(AAA、ILCをモデルケースとして産学官政の連携で先端加速器の利用技術を開発する組織)が、それらの課題について検討した報告書を発行した。

この「国際リニアコライダー 立地課題検討」報告書は、AAA大型プロジェクト部会に設置された立地課題検討ワーキンググループ(主宰:吉岡正和KEK名誉教授)がまとめたものだ。「2010年にAAAは日本の山岳サイトに適したトンネル設計についてまとめた報告書を発行しています。今回発行した報告書は、環境アセスメント、法令、電力、地震など、日本にILCを建設するために検討すべき課題を洗い出したものです」と吉岡氏。


立地検討ワーキンググループは、土木、建築設計、電力設計、施設サービスなどの分野の49名の専門家から構成されている。「今回は、課題をできるだけ抽出しました」と吉岡氏が語る通り、報告書の目次は、法令と規制、環境問題、インフラ、規制緩和の要請といった幅広い領域をカバーしている。

この報告書編集の基本方針は、昨年8月に閣議決定された第4期科学技術基本計画に基づいている。この中で、第4期科学技術基本計画の理念として、目指すべき国の姿が提示されている。「その中の『"知"の資産を創出し続け、科学技術を文化として育む国』の実現に、ILCが資することができると考えています」と吉岡氏は言う。基本計画はまた、世界トップレベルの基礎研究の強化を重点項目としてあげており、「世界トップレベルの拠点形成」も盛込まれている。

この報告書で調査・検討された項目の多くが、日本特有の問題だ。欧米と異なり、日本は国際プロジェクトをホストした経験を欠く。「そのため、対処すべき事項が山積しています。法規制がその一例です。ILCの建設には非常に多くの法規制が絡みます。しかも、それら異なる組織が管轄しているのです」(吉岡氏)。ワーキンググループは、関連法規を徹底的にリストアップし、ILC建設における考えうる問題点を抽出した。

報告書作成にあたり重視された項目が「地震」と「電力」だった。「電力に関する調査研究では、理化学研究所(理研)の参加が非常に役立ちました」と吉岡氏は言う。

報告書には、ILC建設に対する地震の影響(加速度)は地下施設に関しては2分の1から3分の1に低減されることや、過去の震災を教訓としたトンネルの補修が効果を発揮したことなどが示されている。また、国内2カ所の候補地の地質は堅牢であり、トンネル工事にも適した特色を持つことも記載されている。

昨年9月、ワーキンググループのメンバーは、理研仁科加速器研究センターのRIビームファクトリー(RIBF)を見学した。RIBFはガスタービンコージェネレーション設備(CGS)を持っている。CGSは天然ガスを使用した6500kWのガスタービン発電機で、効率的で安定性の高い電力の供給に役立つ。「ILCでも、電力の安定供給は至上命題です。RIBF見学で、とても有用な情報収集ができました」と吉岡氏は言う。RIBFは「地域に溶け込む加速器」を目指して様々な活動を行っており、地域との良好な関係構築に成功している。この観点からもRIBFはILCの良い手本となる加速器だといえよう。

ワーキンググループではILC建設に必要とされる項目として、環境アセスメントを始めとする、今後時間をかけて行って行くべき活動も抽出した。

この報告書は、AAAの大型プロジェクト部会長である山下了東京大学准教授に提出された。大型プロジェクト部会では、各項目への対処方針を検討して行く予定だ。

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