CFF製空洞、第0号機完成

 

ILC ニュースライン3月22日号より

ILC実現に向けて重要となる項目のひとつが超伝導高周波(SCRF)加速システムの開発研究である。SCRFシステムは最大のコスト要因の一つとなっている。KEKでは、コスト効果の高い超伝導空洞の大量生産スキームの構築に取り組んでいる。

ILCで必要とされる超伝導空洞は1万6千台。それらが2千台のクライオモジュールへと組込まれる。空洞は純度の高いニオブ製。ニオブは非常に高価なレアメタルである。これら空洞の製造歩留まり90パーセントを目標に、研究所と産業界が協力して研究開発を進めている。この活動の一環としてKEKが建設した施設が「空洞製造施設(CFF)」だ。CFFでは、一つ屋根の下で、超伝導空洞制作の全行程を行うことが出来る。2月末、CFFで造られた「0号機」が完成した。


CFFは、世界各国の先例を手本にしている。「DESYの研究者による数多くの論文を参考にしました。また、DESYとドイツの空洞製造業者であるRI社、さらに米ジェファーソン研究所、コーネル大学、米国の業者AES社も訪問し、情報収集を行いました」と語るのは、KEK研究機関講師の佐伯学行氏だ。

DESYではすでにFLASHプロジェクト(世界初のX線自由レーザー施設)において、空洞製造の業務委託経験を積んでいる。米国もまた、産業化を積極的に推進している。「アジアは空洞製造の産業化では一歩後れを取っています。CFFは先を行く欧米諸国に追いつくための施設であると同時に、欧米での産業化における問題点を解決することも狙っています」(佐伯氏)。

CFFは空洞製造行程を一貫して行うことができる施設だ。プレス機、縦型旋盤、表面検査機、化学研磨機、電子ビーム溶接機等が、清浄な環境を維持した1つの建屋内に設置されている。また、KEKには、空洞製造のための内面仕上げ用電解研磨施設、空洞性能評価用のための縦測定施設や他の関連する装置が整備されており、超伝導加速空洞の量産に関する研究全てを研究所の敷地内で行うことが出来る世界でのユニークな特徴を持っている。

「電子ビーム溶接などの際に溶解欠陥を作ったり、溶接部に不純物が混入したりすることが、空洞の性能劣化の原因になると考えられています。そのため、全ての製造過程が清浄な環境で一貫して行われることが大変重要なのです」と佐伯氏は言う。CFFでは、空洞の材料であるニオブ板またはニオブパイプが運び込まれると、1回も施設の外部に出ること無く、空洞が完成するようになっている。

現在、EBW機の適切なビームパラメータの定義を目指した活動が続けられている。ビームパラメータとは、電流、電圧、ビームの焦りなどのことで、ニオブ製の空洞パーツ同士を溶接する際に最適となる一連の数値だ。「これらの数値をKEKで定義し、それを産業界に公開することが目的です。公開することで、企業のR&Dの時間短縮や、コスト節減に資することができると考えています」と、佐伯氏は言う。

企業が自社の努力で溶接パラメータを最適化した場合、当然そのデータは企業秘密として守られることになる。空洞製造には複数の企業の参入が必須だが、それらの企業がそれぞれ最適化に向けたR&Dを行うことは非効率的であり、コストもかさむ。そこで、KEKがパラメータを出して、公開しようというわけだ。

去る1月31日(火)、0号機の溶接を完了。2月中には、内視鏡による空洞内部の検査と電解研磨を終了した。しかしこの空洞、なぜ「1号機」ではなく「0号機」なのだろうか?

「この空洞は、製造工程の一部をCFFの外で行ったものです。だから、1号機とは呼んでいません」と佐伯氏は説明する。「スタッフが製造の経験を積むことが重要と考え、EBW機の納入を待たずに一足先に作業を開始しました」。0号機の中心のセル部分は、KEK外の会社のEBW機を使って溶接された。

CFFに設置されているEBW機はドイツ製で、昨年輸入されたものだ。東日本大震災の影響で、設置スケジュールが予定より2ヶ月ほど遅延したが、昨年10月に設置が完了。CFFのEBW機を使って、エンドグループ(両端のビームパイプ周辺)の溶接が行われた。

次の行程で、先に溶接されていた中心部とエンドグループを溶接するときは、再度、KEK外の会社のEBW機を使用した。セルを溶接した時と同じ溶接パラメータを使いたかったからだ。この最終段階で、佐伯氏ら空洞製造チームに思わぬトラブルが発生した。空洞に穴があいてしまったのだ。

「あまりのショックに声も出ませんでした」と佐伯氏は振り返る。穴の空いてしまった原因について佐伯氏は、空洞表面に付着した塵ではないかと推測している。電子ビームで一瞬のうちに高熱に熱せられると、表面に付着した塵がガス化し、爆発すると考えられる。その塵がいかに小さなものであろうと、空洞への影響は大きい。

穴の空いてしまった空洞は、そのままでは使い物にはならない。「私たちには、空洞をまるまる一本あきらめるか、穴を修復するか、の2つの選択肢しかありませんでした。そこで、穴修復のR&Dを行うことにしたのです」と佐伯氏。空洞チームは、ニオブの板を使って試行錯誤を重ね、穴の修復に成功した。KEKの研究者は、想定外に、空洞の穴の修復技術と経験を積むことになったのだ。

3月末にCFF空洞0号機の性能試験が行われる予定だ。この試験は空洞の性能を確認することはもちろん、穴の修復技術の有効性を試すことにもなる。CFFの1号機は、2012年度内に完成する予定だ。

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