日立-KEK協力研究による超伝導加速空洞、41MV/mの加速勾配性能を達成

 


41MV/mの最高加速勾配性能を達成した超伝導加速空洞HIT-02

7月12日(木)、KEKの超伝導加速器試験施設(STF)で行われた超伝導加速空洞の性能試験で、日本国内での最高記録となる41メガボルト/メートル(MV/m)の加速勾配性能を達成しました。

この超伝導空洞は、日立製作所とKEKの協力研究で試作されたHIT-02号機。「TESLA(テスラ)タイプ」と呼ばれる9セル空洞をベースとした実機と同等な空洞です。今回達成した到達加速勾配は、国内で開発されたこの型の超伝導空洞としては、これまでの最高性能記録となります。

加速勾配とは加速器の性能を表す指標のひとつで、粒子が一定の長さを通過した時、受け取れるエネルギーのことを指します。加速器の性能を向上させるには、高く、安定した加速勾配で加速器を運転する必要があり、加速器の主要構成要素である加速空洞を、どれだけ高い加速勾配で運転することができるかが非常に重要な指標になります。超伝導加速空洞は、次世代加速器である「国際リニアコライダー(ILC)」や、次世代放射光発生装置となる「エネルギー回収型ライナック(ERL)」の加速技術として必須の技術です。今回の記録は、ILCの性能要求である35MV/mを大きく超えるもので、日立製作所による加速空洞構造体の製造技術およびKEKにおける表面処理技術が世界最先端の水準に到達したことを実証するものです。

今回の試験結果で特筆すべきこととして、40MV/mの電界に達するまで、フィールドエミッションと呼ばれる現象(電界放出:強い電界により、電子が真空中に放出されること)が観測されなかったことが挙げられます。空洞の性能試験では、縦型の容器内に設置し、空洞を超伝導状態にするために絶対温度2度(マイナス271℃)以下まで冷却してから、徐々に電圧(=加速勾配)を上げていきます。これまでの通常の試験では、超伝導状態で到達できる電界に達する以前にフィールドエミッションが観測され始め、最終的にクエンチ(通電中に突然超伝導性が消失し,電源遮断を余儀なくされる現象)を起こしていました。HIT-02号機では、40MV/mまで全くフィールドエミッションによるX線が観測されておらず、これはこの空洞の極めて優れた性能を示しています。


試験結果を表すグラフ。青点が1回目、赤点が2回目の試験結果。2回目の試験では41MV/mに到達していることが分かる。

関連サイト

リニアコライダー計画推進室
STF

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