KEKの研究者・技術者、中性子科学の発展に貢献

 

日本中性子科学会が授与する、奨励賞、技術賞、President Choice(論文賞)にKEKの研究者8名が選出され、12月10日、11日に開催された日本中性子科学会 第12回年会にて表彰式が行われました。

中性子科学に関して優秀な研究を発表した若手研究者に授与される奨励賞には、KEKの物質構造科学研究所(物構研)の貞包浩一朗氏、京都大学原子炉実験所の小野寺陽平氏(物構研 協力研究員)が、中性子科学の技術的発展に顕著な貢献をした者に授与される技術賞には、グループの一人として物構研の米村雅雄氏と、KEKの素粒子原子核研究所の安芳次氏、仲吉一男氏、千代浩司氏のグループが受賞しました。
また、日本中性子科学会の学会誌「波紋」に掲載された論文のうち、特に優れた論文に授与されるPresident Choiceとして瀬戸秀紀氏(物構研)、日野正裕氏(京都大学原子炉実験所)、山田悟史氏(物構研)の共著論文が選出されました。



左から:功労賞 鈴木謙爾氏、学会賞 加倉井和久氏、奨励賞 小野寺陽平氏、技術賞 星川晃範氏、日本中性子学会会長 金谷利治氏、技術賞 石垣徹氏、安芳次氏、特別賞 秋光純氏

奨励賞
貞包氏が受賞した研究テーマは「中性子散乱による水/有機溶媒/塩混合溶液系の新秩序構造の解明」です。水と3−メチルピリジン(C6H7N)混合液に塩を加えた混合溶液が、温度によって透明から青、緑、黄色、赤と変化することを発見しました。その仕組みの解明のために中性子小角散乱実験を行い、溶液中で10ナノメートルから数100ナノメートルの周期構造が発生、変化するためであることをつきとめました。

小野寺氏が受賞したテーマは「中性子散乱による超イオン伝導体の構造に関する研究」です。Li-P-S(リチウム・リン・イオウ)系超イオン伝導体の構造を中性子と放射光を利用して解明しました。その結果、Li(リチウム)イオンの伝導度が高くなる理由として、準安定結晶のときにできるS4(イオウ)四面体がLiS4の周りに数多く存在するためであると示しました。これはイオン伝導度の高い物質を設計する指針となりました。

技術賞
米村氏は、当時在籍していた茨城大学の星川晃範氏、石垣徹氏とともに、「iMATERIAにおける試料自動交換ロボットの開発」を行いました。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)にあるiMATERIA(アイ・マテリア)は産業利用を目的とした粉末回折装置です。中性子遮蔽体の内外と真空槽の内外と2つの異なる環境をまたがって試料交換を自動で行えるロボットとその制御システムを開発しました。この技術はハイスループット回折計を支える基盤技術として革新的であり、実験効率の向上に大きく寄与しました。

安氏、仲吉氏、千代氏は、「DAQミドルウェアの開発と中性子実験への導入」を行いました。DAQ(ダック)・ミドルウエアは、産業技術総合研究所(注)との共同研究で開発された、ネットワーク分散環境で高速データ収集が行える汎用データ処理技術です。この特徴を生かしMLFでは全ての中性子の位置・時間情報を記録するイベント方式を実現しました。この方式は、その汎用性により、多くの中性子散乱装置に導入され、計算機との連携により装置全体の処理能力を著しく高めました。この技術により、新しい非弾性散乱実験法である「Multi-Ei(マルチ・イーアイ)」法が実現しています。
注) OpenRTM-aist: http://openrtm.org

President Choice
瀬戸氏、山田氏は京都大学原子炉実験所の日野氏と共にMLFのBL06に中性子スピンエコー分光器群VIN-ROSEを建設しています。この装置は分子の集団運動を数ピコ秒から数百ナノ秒の時間分解能で観測可能で、共鳴型スピンエコーという手法を用いています。瀬戸氏らはMLFの強力なパルス中性子と共鳴型スピンエコー組み合わせることによるメリット、および世界の他の分光器に対する位置づけについて論じ、特に優れたものとしてPresident Choiceに選出されました。

関連サイト

日本中性子科学会
J-PARC 物質・生命科学実験施設
DAQミドルウエア及び関連技術(Open-It)

関連記事

2012.03.27 物構研トピックス
貞包浩一朗氏ら、日本物理学会 第17回論文賞受賞
2009.11.12 News@KEK
液体に現れる新しい構造 ~界面活性剤のようにふるまう塩~
2009.10.16 プレス
塩が界面活性剤のように振る舞う現象を発見 ~液体に現れる新しい構造~
2009.3.19 News@KEK
最先端の技術を讃える

TOP