KEKの記事で振り返る2012年
#ハイライトいよいよ2012年も最後の週となりました。今年も年末企画として、これまで紹介した記事を通してKEKの2012年を振り返ります。
ATLAS(アトラス)測定器が観測した素粒子反応。測定された2つの光子のエネルギーが、黄緑色に光る2本の柱で表現されている。(画像提供:CERN アトラス実験グループ)ヒッグス粒子と見られる新粒子の発見
今年の目玉ニュースは何と言っても、ヒッグス粒子と見られる新粒子の発見があったことです。スイス・ジュネーブの欧州合同原子核研究機関(CERN)で大型ハドロンコライダー(LHC)を用いて実験を行っているアトラスグループ及びCMS(シー・エム・エス)グループが、7月4日セミナーを開き、長年続けてきたヒッグス粒子の探索に関して結果を発表しました。両方の実験ともに質量125-126GeV付近に新粒子を観測しています。また、アトラス日本グループは、文部科学省科学技術政策研究所が選んだ2012年の「ナイスステップな研究者」のうちの1組に選ばれました。
KEKの研究成果から相次いでプレスリリース
放射光科学研究施設フォトンファクトリー(PF)は、2012年3月に、初めて放射光の取り出しに成功し稼働開始してから、30周年を迎えました。そして今年もPFからの研究成果が相次いで公表されました。
- − 低消費電力で高集積のメモリーデバイスなどの開発に期待がかかる
「マルチフェロイック薄膜」に生じる大きな電気分極の起源を解明」。 - − 次世代エネルギー源として人工光合成システムの開発に進展すると見られる
「光合成機能をもつ有機分子が働く瞬間を直接観察」。 - − タンパク質の分子機能解析を生体に極めて近い環境で実現する新たな測定手法を実現した
「水中のタンパク質分子のねじれ運動を動画として観測することに成功」 - − 高機能電子デバイスの礎となる強誘電性電子材料の機能性向上への展開が期待される
「新たな電気分極発現原理を有機強誘電体で実証」。 - − 正常な細胞分裂の鍵となるタンパク質複合体を発見し、その立体構造をX線結晶構造解析によって解明した
「正常な細胞分裂に不可欠なタンパク質の機能と構造を解明」。 - − 高効率な太陽電池や光触媒などの材料開発に貢献する
「100億分の1秒で光増感分子の動きを観測」。 - − 家庭用燃料電池の効率向上だけでなく、応用範囲の広い触媒合成方法開発の進展に期待がかかる
「家庭用燃料電池の効率向上に寄与する原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発に初めて成功」。 - − 新しいイオン伝導体の開発や、固体酸化物形燃料電池の性能向上等が期待される
「プラセオジム・ニッケル酸化物の高い酸素透過率の原因を解明 -燃料電池など、性能向上へ-」。 - − フレキシブルエレクトロニクスの研究開発を加速と見られる
「液体を強くはじく表面に半導体を塗布する新しい製膜技術」。 - − 低電力損失のパワーデバイスの実現などを通じて省エネルギー社会実現に貢献すると考えられる
「半導体炭化ケイ素(SiC)に微量添加された窒素ドーパントの格子位置を決定」。 - − 鉛やレアメタルを含まない有機強誘電体で、化学修飾性や溶解性を生かした高機能化に期待がかかる
「ビタミンB12などに含まれるイミダゾールが 強誘電性や反強誘電性を持つことを発見」。
「光合成機能をもつ有機分子が働く瞬間を直接観察」より
「正常な細胞分裂に不可欠なタンパク質の機能と構造を解明」より
また、東海キャンパスのJ−PARCからも、
- −水素貯蔵材料の高性能化の発展につながる
「岩塩(NaCl)構造をもつレアアースメタルの水素化物を発見」。 - −物質科学や非破壊分析などへの活用や、基礎物理研究の大きな進展に期待がかかる
「世界最高のパルスミュオン強度を達成」。
その他にも、
- −ポジトロニウム自身の性質解明や、絶縁体表面を分析する新たな手段として展開することが期待される
「本格的なポジトロニウムビームの生成に成功」。 - −高度医療診断やナノ構造解析等への利用に道を拓く
「大強度電子ビームの超伝導加速を実現」。 - −Bファクトリー実験において、ボトム・クォークを含む新種のハドロン粒子を発見した
「新種の重たい「エキゾチックハドロン」を発見」。
といった成果が発表されました。
「大学共同利用機関」として
KEKは大学共同利用機関として、個々の大学では維持が難しい大きな設備を提供し、加速器を使った研究分野のネットワークの中心としての役割を果たしています。これまでご紹介してきた研究成果は、どれも様々な大学や研究機関から多くの人々がKEKに集って産み出されたものです。そこで、ハイライト記事でも、大学共同利用機関について詳しく知って頂くため「大学共同利用のススメ」と称して、奈良女子大学 高エネルギー物理学研究室や、東京理科大学 長嶋研究室をご紹介しました。
これからのKEK
来年はKEKB加速器をSuperKEKB加速器に、Belle測定器をBelle II測定器に改良する作業が進められ、さらにフォトンファクトリーの次世代放射光源として検討を進めている、エネルギー回収型ライナック(ERL)の実証器コンパクトERLが運転を開始する予定です。
ハイライトのコーナーでも作業の進捗や装置の解説などを特集していきます。来年のKEKウェブサイトもどうぞよろしくお願いします。
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